Web3.0時代、エンタメ企業はどう生き抜くか?ーユーザーが拡張する「余白」を作るー
2021年10月5日、バンダイナムコエンターテインメント社にて開催された、社内講演会「ファン経済2.0~ブロックチェーンが創る新たなエンタメ経済圏〜」に、代表・石川がゲストとして登壇いたしました。
本記事の前編では、Gaudiyの事業内容やNFTの本質的な価値についてお伝えいたしました。今回の後編では、Gaudiy創業の背景から、ブロックチェーン技術によってもたらされるエンタメ業界の変化、Web3.0時代の戦い方までをお届けいたします。(※前編はこちらからご覧いただけます。)
※本記事は、講演の書き起こしに、一部編集を加えています。
5/ 幼少期から救われてきた"コミュニティ"とブロックチェーンとの出会い
BNE:ではここから、石川さん個人や、ブロックチェーン技術が今後、世の中やエンタメをどう変えていくかについて少し深堀っていきたいと思います。
まず19歳で起業して、というところ。率直にすごいなと思っておりまして、石川さんが最初に起業された時や、Gaudiyを創業された時のモチベーションといいますか。「起業」という手段を使ってどういう世の中をつくろうとしているのか、まずお聞かせいただければと。
石川:そうですね、元々10代の時から、小4くらいですかね。テクノロジーとか事業みたいなものは若干やっていて。その延長線上で色々やってたら規模が大きくなってきたので、だったら会社をつくってちゃんと事業化しよう、というのが最初の起業でした。
ただ、Gaudiyを創業した理由としては、元々コミュニティのサービスを作りたいなと思っていたんです。結構、今も肩書き的にはなんかすごそうな人に見えるじゃないですか。23歳で、どこそこの顧問やってるみたいな話で。
でも、小学生の時とかはやっぱり、全然居場所がなかったんですよね。変わってるんで。そんな中で、外のコミュニティに僕は結構いろいろ救われてきて。たぶんみなさんも、なんらかのコミュニティがあると思うのですが、コミュニティというものは自分をエンパワーメントしてくれるし、救いにもなるなと感じていて。
それをずっと思っていたんですけど、適切な解はなかったんですよ。そんな中で、2017年、トークンエコノミーというものに、これはブロックチェーンを使ったエコノミーなんですけど、それに触れた時に、これはめちゃくちゃ理想的だなと思ったんです。だったら、ブロックチェーンで本腰据えた会社を創業しようと。それで立ち上げたのがGaudiyです。
BNE:なるほど。ご自身が幼少期から持っていたような問題意識と、ブロックチェーンとかトークンエコノミーというのがうまく接続して、自分のミッションとしてやっていこうという想いになった。
石川:そうですね。
BNE:ありがとうございます。続いて、ブロックチェーンでファン経済が変わっていくというお話。ファンコミュニティそのものを作り替えるみたいなところを、もう少し具体的にお伺いできますか。
6/ 高値がつく以上に、ファンがサービスをより良くする活動自体に価値がある
石川:今はNFTの高額取引とかが注目されるんですけど、実はすごいのはそこじゃなくて、ユーザーの行動がすごいですと。
わかりやすく言うと、NFTというもの自体は売れるけれども、例えば流行っていないゲームのカードを売ったとしても価値にならないじゃないですか。今、遊戯王カードを売ったら価値になるのは、遊戯王がいまだにファンを抱えているからなんですよね。
そうなった時に、ブロックチェーンゲームでは、ユーザーのロイヤルティ(忠誠心)がめちゃくちゃ高いと。なんでかって言うと、そのサービスをより良くすることで自分の資産価値が上がるからです。サードパーティーを作ったり、ブログを書いたり、友達をたくさん連れてきたり。映画館貸し切ったユーザーイベントとかをファンが主催したりするんですよ。
BNE:それは実際にユーザーの方が。
石川:そう、ユーザーの方が。
BNE:運営じゃなくて。
石川:運営じゃないです、一切。これが世界中で行われている。なので、何が言いたいかというと、ファンの人たちがそのサービスを良くすることが、自分たちのためにもなるって話なんですね。ユーザー全員が、運営の人みたいになってるんです。
これすごくおもしろいなと思ったのは、今までのゲームってコアユーザーの大会が多かったと思うんですよね。でもブロックチェーンゲームは、古参の人たちが新規ユーザーのオンボーディングをめちゃくちゃしてるんですよ。
初心者向けの大会に古参ユーザーが10万円も協賛していたり、ユーザーの人たちがそのゲームをより良くする活動を積極的にしていることが、実は高い値段がつく以上に価値があるんですよね。ゲームの普及と良さをどんどん拡張していこうってところが、トークンエコノミーの良いところですね。
7/ 過度なインセンティブは逆効果。「ソーヤー効果」の罠
BNE:なるほど。そのユーザーがゲームの価値を上げるために色々活動することはわかったんですが、純粋に「ゲームが好き」というモチベーションと「経済的に得する」という両方のモチベーションがあると思うんですけど、そのバランスって実際どうなんですかね。
石川:経済的なモチベーションというのは、あくまでゲーミフィケーションとして実は存在していて。これをやったらお金がもらえるというインセンティブは、実はあんまり機能しないです。これ、「ソーヤー効果」っていう心理学があるんですけど。
BNE:ソーヤー?
石川:そうです。ソーヤー効果でよく比較されるのは「クックパッド」と「楽天レシピ」なんですけど。楽天レシピは楽天のポイントがもらえて、クックパッドでは特にもらえないですと。でも、クックパッドにはたくさんの投稿があるわけです。
これは主婦の人たちはポイントをもらうためにやってるわけじゃなくて、意義がほしくてやってるからなんですね。逆にボランティアにお金払ったら、ボランティアする人いなくなるみたいな話で。
つまり、今まで楽しんで活動していたのに報酬というインセンティブが発生することで、途端に「やらされ感」が出てしまって活動のモチベーションが失われてしまうことがある。これをソーヤー効果と言います。
なので、この体験設計が大事なんですけど、お金っていうインセンティブは楽しさを若干阻害させてしまうところがあるので、貢献できるというモチベーションを継続させるんです。
あとは色んなものがNFTで発行されてますけど、シンプルにこれが普及するかしないかってゲーム自体のおもしろさだと思います。経済的にじゃなくて、ゲームとしておもしろいから使われて広まっていく。今のブロックチェーンサービスも、よいサービスしか残っていないです。
8/ NFTにユーティリティが付加され、価値がどんどん拡張する
BNE:ありがとうございます。さきほど「Axie Infinity」というゲームでは「プレイして稼げる」という話があったと思うんですが(※前編参照)、でも、今って例えば、ゲーム内で使えるコインを日本円とペグさせるみたいなことは難しいのかなと思っているんですけど。どういう風にしたら、そんな世界が来るんですかね。
石川:まず完全にペグしちゃうと、今は法律的にアウトです。ただ、これはいつかできるようになります。また通貨ではなくNFTにして、そのアイテムを持っている人に「クーポン券がもらえます」「こんな電子書籍が読めます」みたいな感じで、周りの人たちが自由に何か(ユーティリティ)をつけられるようになれば、そのコンテンツってめちゃくちゃ価値がある。
BNE:なるほど。
石川:例えば「運転免許証」って運転できる権利でしかないですけど、レンタルビデオが借りられたりとか個人証明ができる、分散型レピュテーションなんですよ。でもこれって、他の人たちが自由につけてるだけじゃないですか。そういうことが色々できるっていうことがNFTの価値の拡張としてはあると思います。これがさっき話した「トークングラフ」です。
BNE:例えばゲームで発行したカードがNFTになっていて、それを持っている人には「何かプレゼントしますよ」とか「ポイントあげますよ」みたいなことが、実経済で起こってくる。
石川:実経済でもいいですし、オンライン経済でも全然良いです。「このゲームのアイテムになりますよ」とか。そうするとコンテンツを発行してる人たちは、それ自体が他の価値にも全部つながっていくので、価値がどんどん向上していきます。
9/ 「未来はいいけど、今はダメです」はNG。先を見据えた事業のつくり方
BNE:ありがとうございます。少し石川さん自身に向いた質問で、2、3年後を見据えて事業を作っている中で、例えば投資家の方たちに「すぐには結果でないけど、絶対にこれが来る」ということを伝えるとき、その難しさって絶対あると思うんですけど、なにか伝えるポイントってあったりしますか?
石川:まずやっぱり大きな絵は描いた方がいいんですけど、足元はちゃんとしなきゃいけないなと思います。なので、今事業として成り立つ最低限のラインっていうのは見極めた方がいいです。
これくらいだったら成り立つとか、これくらいだったら許してくれそうっていうラインと、その上で時代とともにこうやって伸びていきますよっていう手前と未来の部分。きちんと両方つくる。
「未来はすごくいいんですよ、でも今はダメです」ではなくて、「今もいいし、でも未来はもっとよくなりますよ」っていう。そこを描いた方がいいなと思います。
BNE:手前と未来ですね。ありがとうございます。続いて、エンターテインメント業界全体の未来みたいなところで。これからの2年後、3年後。エンタメ業界×ブロックチェーン、NFTはどうなっていくのでしょうか。
石川:そうですね。今は世界でも「NBA Top Shot」だったり、さっきの「Axie Infinity」だったり、色んなエンタメコンテンツでブロックチェーンの活用が進んでいますし、日本でもいろんなNFTの活用がどんどんスタートしていくと思います。
繰り返しになりますけど、脱プラットフォームの流れは確実だと思います。Apple対Epicもそうですし、実際にもうすでに起きてきている。
10/ 今の時代を切り拓いていくために、エンタメ企業は何をすべきか
BNE:そういった過渡期にある中で、エンタメ企業はこうすれば今の時代を切り拓いていけるんじゃないか、みたいなところ。期待も含めてお話しいただけたらと思うんですが。
石川:やっぱりモノを作れる・コンテンツを作れるっていうのは、ものすごいスキルだと思うんですよ。僕らは作れないので色んなエンタメ企業さんと組ませていただいてる。
なので逆に言えば、プラットフォームの真似はしちゃいけないと思います。そこはもう相手が強いんです。そうではなくて、自分たちの強みであるコンテンツ、これは絶対に他社は真似できないので、そこを伸ばし続けることが一番かなと思います。
ただひとつ変えた方が良いなと思うのは、先ほど話した拡張性の部分。ユーザーさんが拡張する余白の部分を、コンテンツ事業者だからといって削らないことだと思います。
今ってファンアートだったり同人誌とかってグレーじゃないですか。でも事実、ああいう活動がコンテンツを支えてる。それでユーザーさんがビジネスをするのってどうなのって思うかもしれないですけど、例えば僕たちがやってるコミュニティであれば、手数料もちゃんと入ってくるんですね。
自分たちが作ったクリエイティブだけでなく、ユーザーさんに拡張してもらう、その余白部分。それは自社でもいいですし、自分たちみたいなコミュニティプラットフォームでもいいんですけど、この部分はちゃんと作る。けれど、強みであるコンテンツは絶対に弱めちゃいけないなって感じですね。
BNE:ありがとうございます、大変参考になりました。まだまだお聞きしたいことは沢山あるんですけれども、またそれは別の機会に設けられたらと思います。では本日はこちらで、「ファン経済2.0〜ブロックチェーンが創る新たなエンタメ経済圏〜」と題した石川さんの講演会を終了とさせていただきたいと思います。改めまして、石川さんどうもありがとうございました。
石川:ありがとうございました。(了)
(前編は、以下よりご覧いただけます。)
いかがでしたでしょうか。少しでもご参考になる部分があれば幸いです。
Gaudiyでは、ファンとコンテンツが共創する新しいエコシステムの創出をめざして、日本を代表するエンタメ企業とともに大きな挑戦をしています。
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