「三振か、ホームランか」クリエイターの創造性をひきだすGaudiyブランドリニューアルの裏側
創業から5年。組織規模と社会への影響力が大きくなってもなお、創業当初のシャープさと歪さを兼ね備えた姿勢を貫き続けることを社会に示すため、コーポレートブランドの一新を行った株式会社Gaudiy。
制作期間1年超えの本プロジェクトは、PARK、kern、TWOTONE、AC部、P.I.C.S.、くろやなぎてっぺい、カヤックアキバスタジオ、BALCOLONY. といった各領域のプロフェッショナルが集結し、Gaudiyと共創することで実現しました。
ブランドリニューアルから早1ヶ月。今、振り返ってなにを思うのか。コーポレートサイトの企画・制作ディレクションを担当したPARKの田村 大輔さん、コーポレート・アイデンティティの設計・制作を担当したkernのタカヤ・オオタさん、そして発起人のGaudiy CEO石川に、ブランドリニューアルの裏側について詳しく伺いました。
■インタビュイー(以下、敬称略)
三振でも、ホームランでも、どちらでも正解
──最初にサイトリニューアルのご相談をPARKさんにしたのは2021年末だったと思います。当時、どのような依頼をしたのでしょうか。
石川:当初から「今までにないものをつくりましょう」と話していた覚えがあります。今後、Gaudiyが本格的にグローバルに挑戦することを考えると、海外の方々にも「唯一無二な会社」という印象を抱いてもらえるように、クリエイティブの部分にこだわったコーポレートサイトをつくり込みたいと考えていました。
田村:印象的だったのは「後世で評価されるようなものをつくってほしい」と言われたことですね。僕らとしては「現世」でも評価されるものにしたいと思いつつ(笑)。ただ、それだけの期待の高さが伝わってきましたし、制作過程でも僕らの意志を尊重して意思決定を託してくれる部分が多かったので、思いきりやりきって良いものをつくらないと、という気持ちに駆り立てられました。
石川:複数の提案をいただく際は、我々が「どれにするか」を決めるのではなく、制作の皆さんは「どれがやりたいですか?」と聞き返していたと思います。一貫性さえ担保してもらえれば、基本はワクワクするもの、面白いことをやりましょうと。
タカヤ:ロゴ制作でも基本的には同じでしたね。最初のご依頼で伺ったのは「今までのクライアントさんなら断るような案を持ってきてほしい」「ホームランか、三振かでお願いします」だけでした。
「それぐらいの気概のものを」なのか、「本当に断られるようなものを」なのか、初回提案するまでは正直本気度をはかりあぐねましたが(笑)。そうしてタガを外した結果、僕も思いきった提案ができましたし、新しいことにもチャレンジできました。
石川:普通は、クライアントさんの枠組みのなかで考えないといけないと思いますが、そうするとクリエイターの可能性を閉ざしかねないじゃないですか。だから僕は、許せる限りその制約を取っ払いたかった。
真のプロフェッショナルな人たちは、プロとしての仕事を要求されたらそれに応えようとしてくれる。だからプロでも失敗するくらいのチャレンジングな環境に置いてフルスイングしてもらった方が、結果がホームランでも三振でも、どちらにしても正解だなと考えていました。
シナリオを組み立て「映像」と「言葉」のセットで思想を伝える
──「後世で評価されるもの」という依頼から、あの素晴らしいコーポレートサイトやムービーが生まれたのですね。
田村:最初は、Gaudiyさんのビジョンである「ファン国家」を紐解いて、世の中にきちんと伝えたい、というところが出発点だったかなと思います。その表現方法として、インフォグラフィックだったり、3D空間だったり、半年ほどは方向性についての議論を重ねていました。
石川:その過程で2022年6月・8月のシリーズBの資金調達があり、会社のフェーズが一段上がって、僕自身の思考もどんどんアップデートされていきました。最終的にサイトの方向性が決まったのは、2022年の終わり頃だったと思います。
──当初の「世界観をビジュアルで紐解くような方向性」から、最終的に「思想を語り尽くすような方向性」に変わったのは、どのような経緯だったのでしょうか。
田村:当初の「ファン国家」を具体的に紐解いていたところから、Gaudiyのより根源的な「思想」を語る方向に、途中でスタンスを切り替えていきました。あくまで「ファン国家」はGaudiyの “What” や “Do” なので、その根源にある “Why” をより深く語る方向にシフトしました。
それが、今回のキーメッセージとなる「人は誰しも、イノベイティブだ。」です。この思想を伝えきるためにはどうすべきかを考え尽くした結果、コーポレートサイトのメインコンテンツとしてのムービー『Gaudiy 未来の予告編』をつくろうという発想に至りました。
──なぜムービーも制作することにしたのですか?
田村:「人は誰しも、イノベイティブだ。」という思想を伝えるには、ビジュアル主体でいくよりも、ストーリーを組み立てることが大事だと思ったんです。そのシナリオがあってはじめて成立するコミュニケーションだと考えたときに、ムービーの方が向いているのだろうなと。
一方で、ムービーは語りすぎてしまうと説明っぽくなって面白くありません。なので余白をあえて残したままにし、足りない部分をサイト上のメッセージで補う、という主従関係をつくりました。
企業の「内」にある言葉を使い、一般の人が自分ごと化できる表現へ
──ムービーもさることながら、サイトの「語りかけられるような言葉」もとても印象的でした。どのように文言をブラッシュアップしていったのか気になります。
田村:今回は特にできるだけ「外」に迎合せず、石川さんやGaudiyさんの「内」にあるワーディングを使って、あたかも石川さんなりGaudiyというひとりの“法人”が話しているかのような表現を意識していました。
石川:僕は普段、大事な場面では「言葉」にこだわる方なんです。たとえば、今回のブランドリニューアルのプレスリリースに入れた「社会のバグに挑むバグ」というキーメッセージは、自分で考えました。
でも田村さんには、良い意味で「実力で殴られる感じ」があるので、基本従います(笑)。僕も言いたいことは言うのですが、表現の部分は信頼してお任せしました。僕らの思想をただ伝えるのではなく、一般の人に伝わりやすいような言葉に変換してくれて、やはりプロだなと感心しましたね。
田村:言葉って正直、誰でも扱えるじゃないですか。でも僕がコピーライティングで入る意味のひとつは、石川さんの内側に秘めたものを言語化して、世の中に伝えていくことだと思っていて。「石川さん以上に、石川さんの言葉を話せるようになる」という意識でやっていました。
また今回、個人的にチャレンジングだったなと思うのは「わかりやすさ」との戦いです。僕は、コーポレートサイトは「手紙」だと思っているんですね。基本的には渡す相手がいて、その人まで感情を伝達する仕事なのですが、今回は伝えすぎない方がいいと考えていました。
というのも、Gaudiyは「得体のしれない感」が魅力のひとつだと思っていて、その奥行きや深みを感じてもらうためには、一定のわかりづらさを残したかった。一方で、わかりづらすぎると共感してもらえなくなってしまうので、その線引きが最後まで難しかったですね。
経営者の「審美性」を探り、ロゴの意匠へと落とし込む
──コーポレートロゴの制作でも「企業の内にあるものを引き出す」という側面で似たところがありそうですが、タカヤさんはどのように思考されていましたか?
タカヤ:基本は同じです。Gaudiyさんに限らず、「もし代表の方が自身でロゴをつくれるスキルを持っていたら、どんなものをつくるだろうか」という視点で考えています。
そのために、企業や事業、チームがどんな思想や価値観を持っていて、なにを美しいと思うのかを知り、とにかくその人の「審美性」をトレースすることを大切にしています。
石川:僕が印象的だったのは、タカヤさんがブロックチェーンのリサーチを丁寧にされていたことです。打ち合わせの内容だけでなく、Gaudiyの事業自体に対してご自身で勉強されていてすごいなと驚きました。
タカヤ:制作期間のはじめの1週間は、その企業の事業領域についてガッとインプットすることが多いです。最終的にロゴを使うのは僕自身ではなく企業のみなさんなので、そのコンセプトや成り立ちを社内外で話したときに、違和感がないように気をつけています。
既に自分の中にある知識だけでは、不明瞭なメッセージとアウトプットになりがちなので、その企業のみなさんと最低限お話しできるくらいには勉強しています。
──そのヒアリングやリサーチの上で「エンコードとデコード」のコンセプトを提案いただきました。このコンセプトには、どのような意図が込められているのでしょうか。
タカヤ:今回はヒアリングやリサーチ内容から思考したというより、制作途中のサイトを拝見させていただいた際に、その「インターネット初期のプロトコル感」にインスピレーションを受けたんです。そこで感じたのは、「分散型」や 「透明性」といったWeb3に特徴づけられるワードというよりは、Webという包括的な世界でGaudiyの在り方を表現したいなと。
今回コンセプトとした「エンコードとデコード」は、デジタルデータの圧縮から暗号化に至るまで、Web1.0の時代から広くあまねく用いられてきた概念で、ときおりバグを引き起こします。これを視覚的に表しているのが、文字コードの不整合による「文字化け」です。
常識にとらわれず「ファン国家」の創出に向き合い、その道半ばで起こる困難をも力として受け入れていく。このGaudiyの姿勢を「文字化け」で表現することを試みました。
最も挑戦的な「読めない」ロゴ案を採用、独自フォントも制作
──そこから生まれたのが「読めないロゴ」だったんですね。
タカヤ:そうです。初回提案では、3つの案を提示しました。
石川:「エンコードとデコード」のコンセプト、そして「バグってるロゴ(文字化け案)」を最初にみた時に、良い意味での “違和感” を抱きました。一方で、デザインとして違和感が絶妙にコントロールされているのを見て、Gaudiyらしいなとも感じました。
タカヤ:もともとの想定では、「バグってない版」と「バグってる版」の2本立てで使用する想定だったのですが、石川さんが「バグってる版だけでいこう」と意思決定してくれて。そのときにはじめて、「オーダーの言葉は本気だったんだな」と気づきました。
石川:僕は今回、タカヤさんとはじめて接したのですが、性格的に「繊細で気にしい」なところがあるのかなと感じたんです。だからこそ「他のクライアントさんでは断られるようなロゴにしてほしい」と伝えることで、タカヤさんの内にある「引力」と僕らのオーダーによる「遠心力」が引き合って、バランスの良い案が生まれるのではないかという仮説がありました。
タカヤ:石川さんの策略に見事にハマりましたね(笑)。今までにない難題なオーダーをいただいた一方で、自らの制作ポリシーやクオリティ基準との帳尻をうまく合わせた記憶があります。石川さんのオーダーを体現しつつも、機能的にも審美的にも裏打ちできるものになっているか、を今回最も意識していました。
──今回、元のオーダーにない独自フォント「Gaudiy Sans」はなぜ生まれたのですか?
タカヤ:文字化けをさせるなら、ゼロからフォントをつくり、その骨格からぶち壊した方が、自分の手応えとして文字化けの理論が掴めそうだと思ったんです。どう壊せば可読性と文字化け感を両立できるのか、何度も検証を繰り返して「Gaudiy Sans」ができあがりました。
このフォント制作も、Gaudiyさんに制約を外していただいたからこそ取り組めた、僕らにとって新たなチャレンジでした。
「自分のことは、自分でわからない」から共創する意味がある
──今回のブランドリニューアルは、PARKさん、kernさんをはじめ、多くの外部パートナーの方々との共創で実現しました。インハウスに完結させない意義をどのように考えているかをお聞きしたいです。
田村:よく「海外に行くと日本の良さがわかる」という話があるじゃないですか。それと同じで、法人も個人も「自分ではわからないこと」が往々にしてあると思っています。だからこそ僕らのような社外の人間が、その会社の素敵なところ、かっこいいところを見出して、それを引き伸ばし、形にしていく。それが僕らの存在意義だと考えています。
その意味では、Gaudiyさん自らが語る魅力をただ鵜呑みにせず、その「言葉の奥にあるもの」に目を向けるように気をつけています。
石川:たしかに。PARKさんは媚びない感じが好きです(笑)。
田村:迎合していたら、良いものなんてつくれない気がしますから(笑)。結局、クライアントさんの手に渡った後は、社内の人たちが主体的に育てていくしかないので、伸びしろを託せるような関係性でありたいですよね。
タカヤ:僕も「自分のことは、自分でわからない」という田村さんの意見に同感です。インハウスで制作される企業さんも増えてきましたが、外部の人たちとコラボレーションすることで生まれる客観性や、広がる世界観があると思っています。
──依頼側として、外部クリエイターとの共創で大切にされていることはありますか?
石川:Gaudiyには「Win均衡(お互いのWinが均衡すること)」というクレド(行動指針)があるのですが、外部パートナーの方々とのWin均衡、つまり「その人たちにとってのWin(成果や学び)があるか」という観点を大切にしています。
もちろん依頼者はGaudiyであり、お金も払っています。でも「お金を払ってるから、100%自分たちのためにやってほしい」は違うと思っていて。うまくいってもいかなくても、その人自身の幅が広がって、「Gaudiyの案件をやってよかったな」と思える状態にしたいんです。
この前提には、自分たちもまた、外部の方から学ばせていただきたいという気持ちがあります。挑戦できる機会を活用していただきつつ、プロフェッショナルな方々との仕事から僕らも学びを得る。そのような「均衡」を大切にしていますね。
同じチームで、拡張性のある新たな作品を創りだしたい
──今回のブランドリニューアルは、世間的にも大きな反響を得られました。今振り返ってみて、学びや反省はありますか?
田村:これまではインハウスのデザイナーさんと一緒に進めることに対して、個人的には反対派だったんです。一方で、どこかでインハウスに託すことを考えると、一緒に進められると理想的なのだろうなとも思っていて。その点では、今回、Gaudiyのデザイナーさんと関わるなかで、インハウスのチームと協働する可能性もあったかもしれないとは思っています。
石川:わかります。僕も、もっとうまくコレクティブインテリジェンス(集合知)をつくれたんじゃないかと考えていました。PARKさん、kernさんをはじめ、今回のプロジェクトに関わってくれた全員が、プロフェッショナルとして個々にGaudiyの言語化をしてくださったと思っています。
一方で、同時並行で各々のインテリジェンスを走らせていたので「完全体」にはならなかった、とも思っていて。ちゃんと余白を残した感覚がある。
田村:今回のプロジェクトは「オムニバス映画」に近かったですよね。そう考えると、細部のトンマナまで揃えるとつまらない作品になってしまうので、今後の拡張の余地を残すくらいが良い塩梅なんじゃないかなとは思います。
──最後に、ネクストチャレンジを教えてください。
石川:今回のチームで、別の作品をつくってみたいです。プロダクト開発と同じで、チームの練度が高まるとさらに良いものがつくれると思うので、もう一度このチームでなにかに取り組みたい。
タカヤ:いいですね。今回のプロジェクトは、やはり他のクリエイターの方々の制作を垣間見れたことが大きな刺激になりました。どうしてもロゴだけでは語り尽くせない世界があって、それをPARKさんをはじめとする各領域のプロフェッショナルが最高のクオリティで描き出してくれていたので、すごく嬉しかったです。
石川:次回はもう一軸、また別の変数を加えてみたいですね。たとえば建築士をチームに呼んで「オフィス」を設計・デザインしてみるとか。なにかしらの変数をチームに足すとどんな化学反応が起きるのか、僕らの作品の発展系を見たい。
また、もうひとつのトライとしては「拡張性のあるアイデンティティ」をつくってみたいです。ロゴやサイトのような「つくられた作品」を広げていくのではなく、作品そのものが新たな作品を生んでいくような「作品の元になるもの」をつくる。
田村:みんなで「ガウディ」っていう食べものをつくるのはどうですか(笑)。たとえばカレーは、つくる人が具もスパイスもアレンジできて、拡張性があるじゃないですか。
石川:めちゃくちゃいいですね(笑)。調味料とかお酒とかも色々と考えられそうです。そういう「元」からブランドが拡張していくような作品づくりに、また挑戦したいですね。
(取材・編集:山本花香、撮影:トミー)
🌟ブランドリニューアルの関連記事はこちら
株式会社Gaudiyに興味を持っていただいた方は、ぜひ下記リンクもご参考ください💁♀️