音楽創作を通じて「ありのまま」をさらけ出す。KONAMIとGaudiyが目指す新たなクリエイターエコノミー
株式会社Gaudiy(以下、Gaudiy)と株式会社コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミデジタルエンタテインメント)は、音楽創作をテーマとしたクリエイターエコノミープラットフォーム「Qto(キュウト)」の共同開発を進めている旨を、プレスリリースにて発表しました。
秘められた創作欲求を、音楽にのせて自由に解放できるクリエイターエコノミープラットフォーム「Qto(キュウト)」。数々のゲーム開発実績をもつコナミデジタルエンタテインメントと、ブロックチェーン技術を有するGaudiyがタッグを組み、どのような世界観をつくろうとしているのか。
今回は、本プロジェクト発足の経緯から、サービスの開発秘話、Qtoを通じて実現したい世界観まで、コナミデジタルエンタテインメントのゲームクリエイター御子柴 英利さん、Gaudiy CEOの石川 裕也さんに話を伺いました。
■インタビュイー(以下、敬称略)
■インタビュアー
「意義あるものがつくりたい」二人の出会い
関岡:はじめに、今回のプロジェクトが立ち上がった経緯からお伺いさせてください。
御子柴:最初の出会いは、社内のブロックチェーン関連部署の立ち上げ担当者を介して話したときでしたよね。
石川:はい。「ゲームコンテンツをつくるのなら、すごく変わっているけど紹介したい人がいる」とお聞きして。それで引き合わせていただいたのが御子柴さんでした(笑)。
当時、印象的だったのが、多くの人はどうやったらサービスが使われるかという議論をするのですが、御子柴さんはご自身の美学をどうユーザーに合わせにいくかという視点で話をされていたこと。
僕自身、ブロックチェーンゲームをつくりたいと思ったことは何度かあったけれど、これまでやってこなかった理由として、どうしてもカネくさかったのと、おもしろくて意義のあるものをつくれる気がしなかったんですよね。でも、御子柴さんとだったらできる気がした。
御子柴:そうそう。石川さんは「既存の国家という枠組みを超えた、ファンのための新しい国づくりを目指している」という話をして、私は「ゲームを通じて人々が新しいクリエイティビティを手に入れて、人自身がバージョンアップするような世界を目指している」という話をした。そんな形で、お互いにおもしろいなと意気投合しましたね(笑)。
石川:僕と御子柴さんは、基本思想において一致してるところもあれば、違うところもあると感じています。
まず、共通するところは、カネ儲けやビジネスではなく、意義のあるものをつくりたいと考えていること。一方で、個人的な解釈では、御子柴さんは僕よりもずっと「個」に寄っているなと感じています。なんというか、本当に「一人」の人をめちゃくちゃ見ている感覚がある。逆に僕は「集合知」を見ているんですよね。
御子柴:たしかに。極論、自分がおもしろければなんでもいいと思っていて。でも、じゃあ「おもしろいものってなに?」って突き詰めていくと、自分がつくったものより、自分がつくったものを誰かが喜んでくれることの方がおもしろい、になってしまうと思うんです。
つまり、究極的に自分の「個」のおもしろさを突き詰めていくと、最終的にはなぜか「他人の視点」でマクロに俯瞰することになっていくみたいな。
具体例でいうと、よくお菓子に付属のカードがついてると思うんですが、これって結局、より多くのお金を払った人が優位になる仕組みじゃないですか。こういう遊び方って、他人に価値を決められるようで嫌だな、と昔から思っていて。
石川:御子柴さんがつくった「モンスター烈伝 オレカバトル」もその考えなんですね。
御子柴:そうです。当時「トレーディングカードに名前を書き込んでしまったら価値がなくなるんじゃないか」とも言われましたが、「誰になんと言われようとオレが思う最強のカードはこれだ」みたいな体験をつくりたかった。
今回、そういった新しいクリエイティビティや体験づくりに、NFTとブロックチェーンによってより踏み込んでいけるんじゃないか、という期待感がありますね。
“新しい通貨” でクリエイターエコノミーをつくる
関岡:ブロックチェーン技術に関して、具体的にはどのようなところに可能性を感じたのでしょうか?
御子柴:NFTは、デジタルなものの唯一無二性を担保できたり、二次流通における収益の還元ができたりするので、これまでにない体験をつくれそうなところに魅力を感じましたね。そのNFTと組み合わせるクリエイティブとして、KONAMIは様々な音楽ゲームをつくってきた会社でもあるので、その領域で一緒にやってみたいと思いました。
石川:実用的な側面では、まさにクリエイターエコノミーの文脈ですよね。
今だと、いい映像やいい音楽をつくったとしても、見たり聞いたりして消費されるだけというか。二次流通では転売する人が儲かってしまうところを、ブロックチェーンを活用することで、オリジナルをつくった人にきちんと還元できて、0→1を生み出したクリエイターが強くなれるところが実用的に優れている。
もう一つ、哲学的な側面もあるなと思っていて。最近僕の中で言語化できたのが、NFTというのは新しい “通貨” だと思うんです。
通貨もアートだと思っていて、福沢諭吉という肖像と番号が振られている紙のアートを、僕らは一万円の価値があるものだと信じているじゃないですか。これも、唯一無二のアートだと思うんです。NFTも同じ発想で、唯一無二性のあるアートに対して、そこに価値があるとみんなが思い込むから価値が生まれる。
そう考えると、稼いで得られるお金にはコインやポイントなどがありますが、コンテンツ自体が一種の “通貨” であるならば、その境界をもっとなめらかにできるんじゃないかと。コンテンツがお金を稼ぎ、お金がコンテンツになるような仕組みができれば、新しい形のクリエイターが生まれるんじゃないかと思ってます。
それを大手レーベル会社ではなく、KONAMIさんとGaudiyが組んで、ブロックチェーンを活用した音楽コンテンツからスタートさせるのがおもしろいと考えてますね。
御子柴:今までの世界って、例えば0→1の発明があったときに、 特許や知的財産権を取得してどう儲けるかみたいな話だったわけですよね。一部の人が利益を独占するのに都合の良い仕組みだったと思うんです。
でも、ブロックチェーンの思想はそれとは全く違う。最初に発明した人が最も評価されるべきで、それを広げていった人もそれぞれの役割に応じて評価される。価値あるものは社会に共有・還元してみんなで世の中を良くしていこうよ、っていう構造を持っているのかなと。
石川:おっしゃる通りですね。まだ思想的ではあるけど、そこに挑戦していきたい。
御子柴:一足飛びにすべてを解決するのは難しいかもしれないですが、同じ方向を見据えてプロダクトを共創していくことで、少しずつ進めていきたいですね。
音楽ゲームからの転換点を生んだ「恥ずかしさの共有」
関岡:今、共同開発をしている「Qto(キュウト)」ですが、現在の「音楽創作を通じたクリエイターエコノミープラットフォーム」に至るまでに、変遷がありましたよね。
御子柴:元々は、譜面作成から音楽ゲームをつくるツールとして出発したんです。でも最終的に、全然違うものが出来上がりました(笑)。
石川:その転換点はいまも記憶に残っています。プロジェクトメンバー内で、各々がつくった曲を共有する会があったんですね。作曲経験のある人は誰もいなかった。
「こういうテーマです」と曲をみんなにお披露目するときの、まず、緊張。そして聴き終わったあとに「意外といいね」「個性が出てておもしろい」という反応をもらった時の、安堵。その場にいた全員が、通じ合う感覚があったんです。
そして次に、春夏秋冬をテーマに曲を作ることにして、それぞれのテーマを当て合う会をしたんですが、それがすごくおもしろかった(笑)。曲のクオリティは高くなかったし、簡単なクイズだったけれど、この「緊張と緩和と喜び」は今までにないコミュニケーションだねと。この方向性に振りきろうという意思決定をして、それまでつくっていたものを全部捨てました。
御子柴:それをヒントに、自分がつくった曲に関するクイズを作成できるようにしたのは、一種の発明だったなと思っていて。曲そのもの以上に、作った曲を通じてエモーションをシェアする、通じ合う、みたいなところが、届けたい価値だなと感じました。
関岡:過去のどれとも違うような、新鮮な感覚がありましたよね。内面を覗かれるようでちょっと恥ずかしいんだけど、結果的には快感というか。
御子柴:わかります。先日、社内でQtoに関する質問を受けたときに「もし高校生の頃に戻ったとして、好きな女の子がどうやら曲を作ってクイズまでつけているらしい。ってなったら、覗いてみたくないですか?」と説明したんですね。自分だったら絶対聴いてみたいし、なんだったら自分がつくったものも聴いてもらいたい。
関岡:それはもう、聴かざるを得ないですね(笑)。
御子柴:そう。どうしても出ちゃうものがあるじゃないですか。嘘がつけない部分。
石川:ツイートとかポエムとか、インスタの画像とも違う、人の内側が見える感じがありますよね。僕もプロダクトとか、ものづくりをやってきた人間ですけど、つくった曲を見せたのは過去一で恥ずかしい体験だった(笑)。
これってなんでだろうなと考えた時に、適切な表現がわからないんですけど、たぶんちょっと「癖(へき)」が出るんですよ。意外とロックだなとか繊細だなとか。趣味みたいなもの。
関岡:出したくないのに、伝わっちゃうみたいなところがありますよね。僕が思うのは「音楽」という媒介がミソだなと。インスタとかだと、見せたいようにうまくチューニングする過程を踏めるけど、音楽の場合はにじみ出るというか。隠せないなにかが出てくる感じがある。
御子柴:作り込んだ綺麗な曲をつくる人は、ちゃんとお化粧をして出す人なんだなとも思いますし、そうじゃない人もいる。でも音楽だから、どちらも許容できますよね。
上手い・下手ではない価値基準がある
関岡:実は僕、昔地下バンドをやっていたことがあって(笑)。日の当たらないところで、完全に自分たちの自己満足でやっていたんですけど、そういう表現したい人が自由に表現できたりとか、正しく価値が行き渡るようになればいいのになと思っていました。
個人的には、あえて言葉を選ばずにいうと「良いものだけじゃなくて、世の中にもっと “クソ” が溢れるべき」だと思っていて。その中に、磨けば光る原石があるかもしれないし、“クソ”のままでも、それをおもしろいと感じる人が必ずいると思うんです。それが許される仕組みがあれば、オモシロの供給量は爆上がりすると思うし、そういう世界をつくっていきたいなと。
石川:僕も、その「“クソ”にも価値がある」という考えは、すごくいいなと思っていて。
今の時代、良いものにお金が集まるじゃないですか。でも、クリエイティブってもっと物語的なのかなと。例えば、ピアノの発表会で聴く演奏がクオリティとしては高くなかったとしても、そこに「自分の子供が練習して弾けるようになった」っていうストーリーが乗るから、心を動かす演奏になるんだと思うんです。
だから、流行っている曲とかみんなが良いと思っている曲だけじゃなくて、どこかに埋もれているような曲でも、誰かの心に刺さったらそれは価値があると認めてあげるべきで。
今回、普通だったら「作曲がうまい人たちを連れてこよう」っていう発想になると思うんですが、そうではない人たちのためにつくるという点がユニークだなと思います。一般的な “良いコンテンツ” が出づらくなるとは思いますが、クオリティが高いものより響くものを重視する。
御子柴:私は美術出身の人間なので、表面だけ整えられたキレイなものってたくさんあるんだけど、なにかつまらないと思うんですよね。今話していたような、ヘタクソだけど想いが込められたものとか、本質が出てるようなものっておもしろさが全然違う。
曲の背景に「〇〇さんが作った」という文脈があるからこそ、「こんな一面を持ってるんだな」っていうおもしろさがあると思うんです。もし、これをお手本通りに作ってしまうと、たぶんおもしろくはならない。音楽を通じて人に伝える、人と通じ合うみたいなところがいいですよね。
石川:そういう意味では、音楽は特に、物語が乗りやすいコンテンツなのかもしれないですね。今までのSNSってどちらかというと「いい、悪い」の評価だったけど、Qtoの場合、曲の良し悪しじゃなくて「通じ合えたかどうか」に価値基準があるので、評価ではないんですよ。こういう仕組みって世の中になかなかない。
関岡:わかります。作曲ってたぶん自己表現でしかなくて、叩くポイントがないはずなんですよね。ネガをぶつけるきっかけがないというか。
御子柴:最近のSNSを見ていると、心が暗くなることも多いと思うんです。悪いところを見つけて叩く人もいる。それは別に否定はしないんですけど、Qtoとしては、人との優劣をつけたマウントの取り合いじゃなくて、ピュアにわかり合いたい人たちが個と個として繋がれて、お互いを許し合えるようなコミュニケーションサービスにしていきたいですね。
音楽創作においてAIをどう活用すべきか
関岡:今、LLMや生成AIが盛り上がっている中で、今後AIをプロダクトに取り入れていくかの議論もしていると思うんですね。Qtoのどういうところに活かせそうとか、AIに関して考えていることがあればお伺いしたいです。
御子柴:このプロジェクトは、誰もが自らの手で自分の曲を作れることに価値があるので、AIが入ってくることで、逆にその価値を失わせてしまう可能性はあると思っています。
一方で「曲とか作れないし、興味もないので」と去ってしまう人たちに対して、「いや、AIがサポートしてくれるから大丈夫ですよ」みたいに、きっかけとして使うことはできるのかなと。
例えば、自分の気分に合わせて曲の要素を選択していくことで、作曲していくこともできると思うので、そういう面に関しては、AIはすごく相性がいいんじゃないかなと思ってます。
石川:僕は結構、AIの使い方は気をつけた方がいいと思っていて。今ってAIを使ったらクオリティめちゃくちゃ上がるじゃないですか。でも、もし〇〇風に作曲できたら、そっちに逃げちゃうと思うんですよ。でも、それだとさっき話したようなおもしろい体験は作れない。
なので、個人的に思うAIの使い方は、自分で作ったあとに「ちょっと良くする」。たぶん「ちょっと」にしないと、恥ずかしさがなくなってしまうと思うんですよね。
御子柴:触ってこねくり回してもいいと思いますけどね。それも個性が出そうな気がする。
石川:「AIで〇〇風の曲が作れる」みたいなマーケティング施策としては効果的だと思うんですが、根本は、下手なままがいいと思っていて。今って、クオリティを簡単に上げちゃうツールが多すぎるじゃないですか。インスタもTikTokもYouTubeも。だから「音を出す」のは、むしろ逆行した方がいいと思うんです。
もし僕たちが、すごくいい曲を作れるツールを持っていたとして、 一緒にみんなで作って共有する会をしたとしても、あの感動はなかったと思うんです。あの価値は絶対に再現できない。
御子柴:たしかに「よくできてますね」とはなっても、あまり盛り上がらないかもしれない。その上で、選ばせてもいいと思いますけどね。「AIが作ってくれたこのきれいな曲と、俺が作ったこのヘタクソな曲があるけど、 俺が共感するのはこっちだ」っていう風に選ぶ。
石川:いや、逃げちゃうんじゃないかな。僕だったら逃げます(笑)。たぶんメイク加工した私とすっぴんの私ってなったら、やっぱ加工した方を選ぶと思うんですよね。
関岡:音楽って、懐がちょっと深いなと感じていて。絵とかよりも、上手い下手があからさまにでないと思うので、価値が生まれやすい土壌なのかなと思います。なので、その不完全な価値をちゃんと評価できる仕組みを作っていけるといいのかもしれないです。あとは、歌詞をAIに作ってもらうのはアリかもしれないですね。
石川:そうですね。歌詞が一番恥ずかしい。そのAIの使い方は、結構いい気がしました。
新しいクリエイティビティをQtoから生んでいきたい
関岡:最後に、Qtoのプロジェクトを通じて実現していきたいことを教えてください。
御子柴:私は、ゲームを通じて “新しい教育” がやりたいと思っていて。日本人の弱点として、言われた通りにやるとか、決められた価値に従うことに慣れすぎてしまっている。学校では「まず先生の言う通りにやりましょう」と教わりますし、会社でも「まず上司の指示に従う」みたいな、自分では考えないところからはじめる場面が多すぎるのかなと思っています。
でも私は「人から与えられるものよりも、自分でつくったり、与える方がおもしろい」と思っているし、個人的にはそれを命題にしているので、自分でつくっていける人を世の中に増やしたいと思ってます。それが今回のQtoのような、クリエイターエコノミーの文脈に繋がってくるかなと。
ゲームクリエイターとしては、「新しくておもしろいもの」「あなたにとって価値があるもの」としてQtoを届けられるといいなと思っていますね。
関岡:ありがとうございます。石川さんはいかがですか?
石川:まず個人としては御子柴さんに近いですが、今の世の中って、良いとされているものを模範してそれっぽくするとか、ルールを守るっていう行動をする人の方が多いと思うんですよ。コピー&ペーストがうまくできるような教育を受けてきているので。
僕は学校教育をあまり受けてこなかった人間なんですが、やっぱり人から教えてもらったことをただこなしていくのっておもしろくなくて、プロダクトとかモノを作っている時が一番おもしろかったんですね。
なので、作曲を通じてクリエイティビティに触れてもらうことで、絵描きだったり、俳優だったり、起業家だったり、なんでもいいので価値をつくっていく、社会課題を解決していくきっかけがプロダクトから生まれるといいなと思っています。
もう一つは、「ファン国家を創る」というGaudiyのビジョンにも関わるのですが、Qtoから色んな役割の人が生まれたらすごく嬉しいですね。
音楽を創る人、投資する人、宣伝してくれる人、ファンクラブでずっと応援し続けてくれる人みたいな感じで、クリエイターを中心とした経済のネットワークをつくりたい。クリエイターを支える人もまたクリエイターだと思ってるので、その価値がなめらかに循環されるような社会を作っていきたいと思っています。
たった一人でもいいから、Qtoがきっかけでクリエイターになれて、クリエイターとしてご飯が食べられるようになった人が出てくるといいなと思っているし、それでQtoからスターが出てきたら最高ですね。
御子柴:スター誕生、いいですね。顔のわからない大勢からお金を集めるビジネスよりも、その方が夢があるなって思います。今回のプロジェクトでその種はできたと思うので、ユーザーさんたちと一緒に新しい世界観をつくっていきたいですね。
本プロジェクト「Qto(キュウト)」の詳細は、以下をご確認ください。
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