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「DAO的な組織づくり」の実態とは? Ubie×ゆめみ×Gaudiyの代表が語る【イベントレポート】

2022年6月23日(木)に開催された、特別イベント自律駆動するDAO的な組織づくり

自律分散型の組織形態のひとつ「ホラクラシー」を採用するUbie共同代表 エンジニア・久保さんと、マネジメントの自動化をめざして独自の組織づくりを推進する、ゆめみ代表・片岡さんをゲストにお迎え。

DAO的なEXを重視した組織づくりを推進するGaudiy代表・石川とともに、自律分散型組織における意思決定の仕方やインセンティブ設計、採用、カルチャー醸成に至るまで余すところなくお話しした全容をお伝えします。

注:本イベントはDAO “的” な組織づくりとして、主に自律分散型の組織についてお話ししています。純粋なDAOではありませんのでご了承ください。

■スピーカー

■モデレーター


Gaudiyの「Web2.5」的な組織づくり

石川さん(以下、石川):今回は「DAO的な組織づくり」がテーマということで、まずはGaudiyがどのようにその組織文化をつくっているかについて簡単にご紹介できればなと思います。

Gaudiyの組織コンセプトとしては「Web2.5」。なぜWeb3ではなく”2.5”なのかっていうと、よく自律分散型の組織と中央集権的な階層型組織が対比されると思うんですが、僕は階層型は好きではないけど、完全な自律分散もイノベーションを阻害するのでよくないと思っていて。

自律分散そのものを目的にするのではなく、あくまでミッション・ビジョンの実現や、そのための事業、プロダクトの成長がメインの目的にある。それを阻害しない限りにおいて、自律的にやりがいを持って働ける体験を提供する、というのが組織づくりの基本コンセプトにあります。

Gaudiy社・登壇資料より

具体的な事例をいくつか紹介しますと、ひとつは「Gaudiy Protocol」

これは一種の「教典」みたいなもので、その特徴としては、何かをする際に上司が意思決定をするのではなく、そのプロトコルに則ってさえいれば、誰でも意思決定ができるという仕組みです。これによって、人のマネジメントが介在しない自律分散的な組織を構築しています。

その運用としては、全メンバーがプロトコルを参照できる「Protocol Issue Board」という場所があります。また、誰もが新しいプロトコルを提案したり、既存のプロトコルを改善できるようになっていて、その行動をソフトウェア的に「プルリク」と呼んでいます。

プルリクを送り、所定のレビュープロセスを経て問題なければ、Gaudiyの公式プロトコルとして認められる。そういった形で、メンバー1人ひとりが組織をつくっていけることがGaudiyの特徴です。

Gaudiy社・登壇資料より

ふたつめに、その文化から生まれた取り組みがEMPOWER-DAYです。僕たちはWeb3という新しい領域で、新しい概念や技術を扱っているので、リサーチやインプットがすごく大事なんですね。ですが普段の業務が忙しすぎて、なかなか中長期的なことに取り組めないという課題がありました。

そこで、緊急度は高くないけれど重要なことにしっかり取り組める時間を全社で設けるために、毎週水曜は通常業務をしない日としました。ブロックチェーンやエコノミクス周りの勉強会を開催するなど、個々人が自発的に中長期に向けた取り組みをしています。

3つめは、DAO的な採用を体現する「お試し入社」という制度です。

これは、最短2週間〜最長3ヶ月働いた上で、候補者の方とメンバー全員がお互いに「一緒に働きたい」という合意が取れたら、正式入社に至るという選考プロセスの一部になります。

これは僕たち側だけでなく、候補者側も本当にマッチするかを確認できる良いきっかけになっていますし、全員がDAO的に採用の意思決定に関わることによって、採用や組織づくりを自分ごと化するという目的も大きいです。

Ubieさんやゆめみさんと比べると、まだまだ組織規模も小さいですけれども、このような形でDAO的な組織づくりに取り組んでいます。

Ubie Discoveryのホラクラシー組織とDAOの違い

久保さん(以下、久保):Ubie共同代表・エンジニアの久保と申します。本日はよろしくお願いします。

Ubieには現在、全社で5つの組織体があります。

Ubie社・提供資料より

まず全社企画をしているUbie Headquarters。事業の種を見つけ、0→10の開発をするUbie Discovery。医療機関向けの事業で、セールスやカスタマーサクセスを中心に事業のスケールを担うUbie Customer Science。さらに直近、製薬企業向けの事業も伸びてきまして、そのコンサルティングなどを担うために立ち上がったUbie Pharma Consulting。それらに加えて、コーポレート組織という体制です。

Ubieの組織づくりにおける大きな特徴のひとつは、それぞれの組織体が異なるカルチャーを持っている、という点にあります。その中で、今回の "DAO的" というところで一番近いと思うのが、Ubie Discoveryです。

具体的には「ホラクラシー」というティール組織のフレームワークを取り入れていて、ここはDAOに似たような特徴があるかなと思っています。

Ubie社・登壇資料より

ホラクラシーがピラミッド型組織と違うのは、それぞれの目的を持ったサークル(チームに近い概念)に分かれていて、そのサークル内であらゆる意思決定ができるという点です。

基本的には、全員が会社の状況にアクセスでき、その情報をもとにメンバー個々人が経営者視点をもって意思決定をしていく。新しいサークルができるときも、経営からの指示ではなくて、現場主導で起案され、組織構造が有機的に変わっていくようなイメージです。

ホラクラシー導入による定量的な成果でいうと、週あたりの会議時間が、全社で25%削減されました。また、スタートアップだと、全員が当事者意識を持っているが故に合議になりやすく、意思決定に時間がかかるケースもありがちだと思うのですが、各自の役割が明確になったことで、意思決定がどんどん速くなったという実感があります。

最後に、Ubie Discovery(ホラクラシー)とDAOの比較もしてみました。

Ubie社・登壇資料より

まず意思決定については、ホラクラシーにも会議体のルールだったり、ロールやサークルを追加・削除するためのプロトコルがあるので、その辺りは共通かなと思いますね。一方で、そのロール自身が勝手に意思決定をできる、というところは少し違うかなと思っていて。DAOにもよると思いますが、DAOでは合議になるところを、ホラクラシーでは単独で実行できます。

また報酬でいうと、DAOだとトークンで支払われることが多い一方で、Ubie Discoveryでは全メンバーに対してSOが付与することで、事業成長に対するインセンティブを働かせる設計になっています。

さいごに、働き方。Ubie Discoveryの場合、基本はフルコミットのメンバーで、同期・非同期どちらのコミュニケーションも大切にしているので、その辺りはDAOとの違いかなと思っています。

全ての意思決定をレビュープロセスで行う、ゆめみの組織づくり

片岡さん(以下、片岡):ゆめみの片岡と申します。よろしくお願いします。私は20年以上前にゆめみという会社を創業いたしまして、今は内製化支援を行うリーディングカンパニーという形で事業を展開しております。ティール組織の代表的な企業を目指して組織変革に取り組んでいる最中です。

その内製化支援をしていると、課題はやはり「組織づくり」なんですね。であれば、ゆめみが先進的な組織を実験的に試みて、その知見も顧客に提供していこうという背景から、ティール組織を志向するようになりました。

その特徴的な取り組みとしては、先ほどのGaudiyさんにもあったようなプロトコルですね。社内では「プロリク(プロポーザルレビューリクエスト)」と呼ばれているのですが、このレビュープロセスを通じて、全員があらゆる意思決定をできるようにしています。

ゆめみ社・登壇資料より

その裏付けとして、ゆめみでは代表取締役権限を社員全員に付与しています。この「全員が代表権を持つ」「プロリクは否決されることはない」というのがレビュープロセスにおけるポイントです。

これによって、本当にすべての意思決定。ボールペン1本を買うところから、自分の給与までを、プロリクを通じて決めています

給与の自己申告においては、明確な評価基準が必要なので職位ガイドラインを作っています。この申請プロセスも、Slackのオープンチャンネルで「こういう理由でこの給与にしたいです」とプロリクをあげ、レビューされて給与が決まるっていうシンプルな形になっていますね。

ゆめみ社・登壇資料より

もうひとつ大事にしているのが、情報の透明性です。要は上司がいないので、こういう時はどうすればいいんだろうっていう判断の拠り所が、ドキュメントなんですね。

なので、あらゆることをしっかり言語化し、ドキュメントにする。色々と苦労してティール組織をつくってきたところもあるので、他社さんが同じ道を歩まなくていいように、ゆめみオープン・ハンドブックという形で社内の情報をすべてオープンにしています。

自律分散型組織を取り入れたきっかけは?

石川:先日、日本CTO協会が発表した「エンジニアが選ぶ開発者体験が良いイメージのある企業ランキング30」に、ゆめみさんは10位、Ubieさんは13位にそれぞれランクインされていたのを拝見しました。今日はそんな2社に僕から質問させていただいて、教えていただければなと思っています。

最初に、ティールやホラクラシーなどの自律分散型組織を、自社でやってみようと思ったきっかけからお伺いしてもいいですか?

久保:はい。創業初期はフラットな組織で意思疎通できていたところから、人数が増えるにつれて情報が溢れるようになってきて。そうなった時に、マネージャーという役職をつくって組織を階層化する企業が多いと思うんですが、Ubieでは自律分散型にしたって感じですね。

元々、僕も共同代表の阿部も、教科書的に書籍を読むのが好きで。それでホラクラシーの本を読んでみたときに、フレームワークみたいなルールが色々とあって、エンジニア目線からすると安心感があったんですね。また、メンバー個々人がダイナミックに意思決定できる、という部分が個人のモチベーションにも繋がりそうだと感じて、一度試してみようと。

当時、2020年頃とかで、ティール組織に対する世間的な注目が特に集まってた時期だったというのも背景としてはありますね。

Ubie株式会社・共同代表 エンジニア 久保さん

石川:ありがとうございます。片岡さんはいかがですか?

片岡:ゆめみは、過去に部長が3代続けて辞める、という事件がおきまして。会社は辞めたくないけれど、部長という役職をやめたいと。そんな事件が起きて、なにかがおかしいなと思っていたんですけれど、どうやら組織の構造に影響があったんですね。

何かというと、部長という名のもとに、プロジェクトマネジメント、プロセスマネジメント、プロフィットマネジメント、ピープルマネジメントという4つの役割を担わせてしまっていた。プロジェクトの難易度が高く、案件同士の依存関係もある中で、これはさすがに無理ゲーだなと思ったんです。

それからロールをどんどん分散していって、途中、POとEMを分けた「Spotify Model」みたいな体制になったのですが、Spotifyもうまくいかなかったように、僕らもマトリクス型組織の限界を感じてきまして。さらにロールを分けていって、ホラクラシーっぽくなってきたのですが、意思決定の部分だけ合わないなと思っていたんですね。いよいよどうしようかなと考えていたときに、ティール組織の本で「助言プロセス」を知ったんです。

最初はピンとこなかったんですが、よくよく考えたらOSSもレビュープロセスでやってるよなと。なるほど、インターネット時代にはインターネット組織的なものが勝つのかと思い、わりと直感的な確信を得て、先ほどお話ししたプロリクをえいやで導入しました。ここに行き着くまでに、10年くらいかかったかなと思います。

DAO的な意思決定プロセスの実態

石川:そのレビュープロセスの導入は、いきなり全社で始めたんですか?

片岡:そうです。「今日以降、すべての意思決定をプロリクでやります。」みたいな感じでDay1をしました。で、Day2に起きたのが、今までえいやでやってきた僕の意思決定が、すべてプロリクを通さないとできないという(笑)。

全社に影響のある意思決定は社員全員にレビューをもらわないといけないので、めちゃくちゃ大変だったんですが、プロリクで決まったことをドキュメント化していくうちに、これはコードと同じだなと思いまして。要は、レビュープロセスを通じて決められたことは、日本語という自然言語で書かれたコードであり、我々社員は、そのコードによって実行されるインスタンスであると。そう捉えると、エンジニアはすっきりしてましたね。

石川:おもしろいですね。Gaudiyも似たようなレビュープロセスがあるので、イメージはしやすいんですが、逆にUbieさんの組織だと、どんな意思決定プロセスなんですか?

久保:ホラクラシーの意思決定に関しては、基本的にロール単位です。そのロールがもつ目的や権限、責務の範囲内であれば、勝手に意思決定していいよっていうのが私たちのやり方ですね。

 Ubie社・登壇資料より

一方で、そのロールを増やしたり、無くしたりするには、きちんとしたプロセスに則って起案しなければならないというルールがあります。起案者は、組織のひずみ(理想と現実のGAP)を議題に挙げるのですが、まずは現状の課題と理想状態をクリアにするところから始まります。

基本的には、起案者の意見が通りやすいようなプロセスになっていて、問題が100%起こり得るような可能性がなければ、反論で却下されることはありません。そういう形で、現場主体で組織のガバナンスがどんどん変わっていくのがホラクラシーのやり方ですね。

石川:個人的に、ホラクラシーでここは難しそうだなと思っているのが、ロールに意思決定を委ねたときに「なんか違うな」と思ったとき。どうやって対処するんですか?

久保:それでいうと、例えば「あるロールを新しくつくります」といった起案が通ったけれど、実際にやってみたら全然ワークしていないみたいなケースになったら、今度はそのロールを無くすための起案をあげて決裁を通すような感じですね。

石川:もう、ほんとにロールベースなんですね。

久保:基本的にそうです。そのロールに意思決定の権限があります。ただ、そのロールに誰をアサインするかについては、「Lead Link」と呼ばれるサークルのリードみたいな人がいて、その人が権限を持っています

これが結構マネージャーに近い役割にはなるのですが、サークルが持つ目的を達成することに対して責任を負い、そのためのアサイン権限があります。ただ、ロールの権限内の意思決定は、リードにいちいち確認を取らなくても勝手に進めてOKみたいな感じですね。

石川:ありがとうございます。チャットで来ている質問にも答えたいと思うんですが、レビュープロセスを取り入れると意思決定スピードが落ちないですか? と。Ubieさんはいかがですか?

株式会社Gaudiy・代表取締役 石川さん

久保:基本的にロールが意思決定して進めていけるので、むしろガンガン早くなっています。組織ガバナンスの変更における意思決定については、たしかに所定のプロセスを通す必要はあるんですが、これもヒエラルキー型の組織みたいにマネージャー、次に部長、次に役員…みたいなステップがないので、全然早いと思いますね。

石川:そうですよね。片岡さんも同じですか?

片岡:めちゃくちゃ速くなりすぎて、むしろ社員が不安になっちゃうくらいです(笑)。基本すべてSlackで完結するので、例えば取締役の選任でも、会議も1on1も要らないんですよね。逆にいうと決議が速すぎて、どれが通っていて、どれが通っていないのかが追いつけないみたいな方が、今は課題になっています。

石川:片岡さんに追加で質問が来ているのですが、とはいえ経費精算などの細かい意思決定も全員レビューだと面倒ではないですか?と。

片岡:正直、経費精算のレビューそのものは、やってもやらなくてもいいと思ってて。でも、わざとそうしているのは、経費精算が最も頻度の高い「申請行動」だと思ったからです。

まずはリスクがないところから申請してもらって、レビュープロセスそのものに慣れてもらう。ほかのプロリクと同じお作法で、背景、目的、効果、狙いみたいなテンプレートに沿ってきちんと書いてもらうんですね。

すると、次は組織のルールに対して提案をしてみようとか、事業インパクトのある大胆なことをしてみよう、みたいになってくるので、経費申請はいわばステップアップの手段。一種のトレーニングとして捉えていますね

オンボーディングは難しい?

石川:今のお話にも通ずるかと思うんですが、「オーボーディングのリアルが知りたいです」という質問がQAの方にきていて。僕自身、なかなか難しいなと思っているんですが、それぞれどんなことをされていますか?

片岡:ゆめみの場合、ホラクラシーほど厳格じゃないので、レビュープロセスに対するオンボーディングはあまり必要としていないですね。

そもそも人のあらゆる意思決定って、レビュープロセスだと思っていて。みんなで集まって「どこにキャンプに行こうか」「雨が降りそうだから、キャンプ辞めようか」と話し合うことも、そうだと思うんです。レビュープロセスというのは、人間のプリミティブなプロトコルだと思っているので、そこはいい感じにやったら慣れていくのかなと思っています。

一方で、誰に何を聞くと良いのかが細かく分かれていたり、独自のルールがどんどん変更されていたりするので、そのキャッチアップに対してはオンボーディングプログラムを作っています。セルフオンボーディングプログラムとして、3ヶ月位かけてスキマ時間にやってもらう形式で進めていて、ゆっくり慣れていっていただいてますね。逆に、Ubieさんの方が気になります。

実際のオンボーディングシート(出典:ゆめみオープン・ハンドブック

久保:そうですね、オンボーディングで苦労するところはありますね。

普通の会社であればマネージャーに壁打ちして進めるようなことを、はじめから自分自身で意思決定しないといけなかったり、ホラクラシー特有のミーティングの進め方に則らないといけなかったりするので、オンボーディングは色々と工夫をしています。

代表的な例でいうと、業務をサポートするメンターの他に、カルチャー面をサポートするカルチャーメンターが必ず1人ついています。Ubieではどういう考え方をして、こういう場面ではどのように振る舞うか、みたいなところをサポートしています。

また、オンボーディングの最後にカルチャーに関するテストがあって、それが満点になるまで卒業できない、みたいなことをやっていますね(笑)。

片岡:卒業できないっておもしろいです(笑)。ゆめみもオンボーディングのチェック項目があるんですが、すべて終えないと卒業できないというよりは「1500点以上でこのギフトがもらえる」みたいな感じで、達成することへのインセンティブをつけています。

ゲーミフィケーションでユーザー(社員)の行動を促す

石川:その辺り、ゲーミフィケーション的なものですよね。

片岡:もしかしたらそこはWeb3的な考え方に近しくて、マネージャーもいなければ権威のある人もいないので、それに代わる動機付けをゲーミフィケーションで補っているのかもしれないですね。

石川:たしかに。最近Learn to Earnみたいに学ぶことによるインセンティブもあったりするので、それはWeb3っぽいです。僕たちもちょっとしたゲーミフィケーションを制度に入れてみたいとは思ってるんですが、一部の人しか参加しないんじゃないかという懸念があって、ゆめみさんでは実際どうですか?積極的に参加する人とそうでもない人って分かれませんか?

片岡:そこについては、どのようにすれば、社内というマーケット全体をレイターマジョリティに進行させていけるのかを考えて設計しています。

いわゆるイノベーターに関しては「すごいね」という承認なんですが、アーリーアダプターくらいに浸透してきたタイミングでインセンティブを導入し、一気に過半数まで持っていくということをやってます。

株式会社ゆめみ・代表取締役 片岡さん

その手段としてやっているのが、キャンペーンです。例えば資格制度であれば、通常時は資格取得ごとに5万円の報奨金のところを、今年の年末までは資格取得ごとに10万円、みたいなキャンペーンをする。そうすると、人には「損失回避」という心理があるので、今やらなきゃという気持ちになって、このキャンペーン期間に資格を取る人達がバッとでてくる。それをまた全社会で表彰して、資格を取るといいことがあるんだというムーブメントを作り、過半数までばーっと広げていくみたいな感じで展開しています。

ただし、ここで気をつけないといけないのは「アンダーマイニング効果」です。お金を払い続けていると、それがなくなった時に人々の意欲が低下してしまうという行動科学があるので、キャンペーンをする時は一定の期間で終わることを明確にしています。

石川:本当にプロダクトと同じですね。めちゃくちゃおもしろいです。

自己申告制、自動昇給…各社の評価制度とインセンティブ設計

石川:ここからは、もう少しインセンティブ設計や評価制度に踏み込んでいけたらと思います。

ちなみにGaudiyはゆめみさんをかなり参考にしていて、自己申請制の給与制度にしていて。また給与報酬だけでなく、SO(ストックオプション)やトークン、普通株もインセンティブとして用意していたりします。おふたりのインセンティブに対する思想や、現行の制度についてお伺いできますか?

久保:そうですね。Ubieは組織ごとにインセンティブの設計も違っていて、Ubie Discoveryについては「全社の成果に対して自動昇給」というルールでやっています。

というのも、0→10フェーズは不確実性が高くて、アウトプットが最終的なアウトカムに結びつくかどうかを計測するのは現実的ではないなと思っていて。なので、KPIを定めて個々人を評価するよりも、会社全体を成長させることに集中してもらうために自動昇給にしていますね。

また、在籍期間が長くなるほど、給与が上がるようなロジックにもなっています。長く会社に貢献してくれている方は、基本的にドメイン知識もどんどん増えていくので、貢献できる幅やパフォーマンスが高くなるという考え方です。

石川:在籍期間もちゃんと考慮するんですね。ゆめみさんは給与は自己申告制だと思うんですが、実際どのように運用されてますか?

片岡:ゆめみの場合はかなり謙虚な人が多くて、初期の頃はいかに上げてもらうかの戦いでしたね。給与を上げる提案をこちらからしても上げてくれないから、強制的に昇給させるプロセスをレビュープロセスで作って、僕が上げるみたいなことをしていました。

ただ、職位ガイドラインを作ってからは、8、9割以上の人が給与を自己決定できるようになってきていますね

キャリアパスや職位ごとの期待役割が詳細に書かれていて、「星取表」という技能レベルを共有できる独自のデータベースも作っているので、それらをチェックしてもらうことで大体の給与水準が掴めます。また、お互いにレビューをしたり、Slackで各々のtimesチャンネルのトピックに給与を記載するようにしているので、そこから社内の相場観も形成されています。

実際の「星取表」(ゆめみ社・提供資料より)

石川:その辺りの透明性、大事ですよね。Gaudiyでも申請があれば給与が見られる状態にしています。逆に自己評価が高すぎる人はいないんですか?

片岡:めったにいないんですけど、その場合は、その人があげたプロリクは否決できないので、上書きするみたいな感じです。

インターネットでも誤ったコードが存在すると、それを正しい形で上書きするじゃないですか。「給与5000兆円です」って言ったら、「いやいや、それは無理だから800万円ね」みたいな感じで、その5000兆円というコミットに対して、僕が800万円ですかさずコミットするみたいな。これは極端な例ですが、減給のコミットで上書きされた場合は、次の申請がしづらくなってしまうこともあるので、「もうそろそろ上げてもいいんじゃない?」というコミュニケーションを取ったりして、かなり人間的なやり取りをしています。

石川:ここでちょっと片岡さんにお聞きしてみたいのが、Gaudiyは自己申告制の給与を取り入れたなかで、そんな変な申請は起きないだろうし、問題が起きたらその時に対処すればいいよね、という性善説的な思想を持っているんですね。ゆめみさんは、性善説とか性悪説とか、その辺りの組織づくりの思想ってありますか?

片岡:ゆめみは性善説ではなく、実は性悪説で。僕は、荀子が唱えている性悪説を採用していて、それは「人は生まれながらにして動物的な人間だから、きちんと教育することによって社会的な動物になる。だから教育が大事であり、人間は無限の可能性を持っている。」という考え方なんですね。

やっぱり、本能的な人間って、本来手放しにすると怠けてしまうものだと思うんですよ。なのでゆめみの場合は、個々人がなにをしているかをきちんと可視化すれば怠けない、という前提の上で、インセンティブを組み合わせてうまく成果に結びつくように行動を促しています。

DAO的な組織で活躍する人材・採用プロセスとは

石川:ひとつ取り上げたい質問がありまして、組織の人材レベルが必ずしも高くない場合でも、自律分散型の組織は成立するのでしょうかと。僕は、一定やはり難しいなと思ったりするのですが、おふたりはいかがですか?

久保:僕もそうだなと思います。ホラクラシーというものが、意思決定を任せられる人しかロールにアサインされないので、任せられない人は組織にいられなくなってしまう構造なんですよね。なので、意思決定を委譲できそうな人かどうかを、面接の時に見るようにしています。で、入ったらもう任せる。ただ、採用スピードが上がらないというのは課題としてありますね。

石川:そうですよね。片岡さんはいかがですか?

片岡:個人的には、特別なスキルは要らないんじゃないかなと思っていて。大学のサークルも小学校のクラスもレビュープロセスだったと思うし、原体験としてはみんな持っているはずなんですよ、でも、あまりにも既存の会社のプロセスに慣れすぎてしまって、そことのギャップに戸惑うみたいなのはすごくあるかなと思っていて。なので、逆に新卒とか若い人ほど、ゆめみというプラットフォームをすごく活用してくれている印象がありますね。

石川:いいですね。そういう若いメンバーからのプロリクって、経営目線とはズレがあるような場合もあるかと思うんですが、その場合はレビューを結構入れていくんですか?

片岡:そうですね。レビューで意見を取り入れながら修正していくっていうのはもちろんあるんですけど、僕は誤読誤認、視野狭窄、短絡的、利己的、みたいな行動が、思いのほかイノベーションを生むと思っているんですね。
その場合は、実験的なプロトコルであることを明示してもらった上で、「PNI(Praise Next Interesting)」という型でレビューをしています。

これは、まず「賞賛して(=Praise)、次につながる提案をして(=Next)、試みをおもしろがる(=Interesting)」ことで、挑戦に対してはまず応援するという行動を、レビューで型化しているんです。Slackでも「ナイス実験」という絵文字があって、それを押すだけで少額のインセンティブがもらえるようになっています。

石川:なるほど、おもしろいですね。

片岡:僕からもGaudiyさんに聞いてもいいですか?「お試し入社」という制度がおもしろいなと思っていて。全員がその人と一緒に働きたいとなったら入社だと思うんですが、社員の人数が増えてきたらどうするんですか?

Gaudiy社・登壇資料より

石川:とりあえず、僕は100人までは続けたいと思っていますね。

やっぱりこう、組織が揉めるのって「なんでこの人が入ったんだろう」とか、他責になっていることが多いなと思っていて。これは採用だけじゃなくて、給与を自ら決められる制度も、組織を自ら変えていけるGaudiy Protocolという仕組みもそうなのですが、他責にならない状態をつくることが大事だと思っています。

なので採用においても、全員が意思決定に関わることで言い訳をさせない。ただもちろん、人数が増えてくると見えづらくなってくる部分はやはりあるので、そこに対してはお試し期間中にやったことを全社に共有する場を新たに設けたりなど、継続的に制度を改善していますね

片岡:いいですね。なるほど。

石川:お試し入社でお互いのマッチがみれるので、今のところ、正式入社したメンバーはひとりも辞めていないです。ゆめみさんは、入社後に「ちょっと違うな」となった時、どうされていますか?

片岡:いわゆる”ぶらさがり”のような形で組織を利用する人に対してはイエローカードというものがあります。このイエローカードは全員が持っていて、社員同士で出し合えるのですが、カードが2枚たまると代表取締役権限が剥奪されるというルールです。

スキル面では、新卒も中途も同じコーディング試験でしっかり見極めをしているので問題になることはほぼないのですが、カルチャー面に関してはこのイエローカードで担保しています。

プロトコルが組織にもたらす価値

石川:最後に、自律駆動する組織やプロトコルにどんな価値を感じているかを、今日の感想も含めて一言ずついただけたらと思うんですけど。久保さんからお願いしていいですか。

久保:そうですね。やはり自律的に意思決定をしていくということは、良いことがあっても悪いことがあっても自分ごと化できるっていうのが一番の価値かもしれないです。

かつ、それぞれが認め合って自律しているからこそ楽しく働けているのかなと思っていて。その組織にとっての人の質がよくなる。そういう仲間と一緒にやっていけるというのが、なによりの良いポイントかなと思いました。

石川:ありがとうございます。めっちゃ共感です。では、片岡さん。

片岡:自律って、個人ベースでいうとセルフコントロールされている状態が自律なんですよね。GaudiyさんもUbieさんも、自分たちで自己決定できるっていう意味では自律なんですけど、一方で、組織としては外部環境に対して適切に振る舞えるかどうかはわからない

ゆめみ社・提供資料より

このAdaptive(適応的)を目指すためには、もちろん自律や分散が必要で、全員が同じことの意思決定をしてたら進まないので分散するんですけど、分かれて勝手に進めてしまうと視野狭窄になってしまう。そこで大事なのが「協調」。周りからの意見をもらったり、助けをもらったりして、「自律・分散・協調」というのが適応的であるための条件だと考えています。

我々の場合は、その自律分散協調を意識して、レビュープロセスと、8人以上になるとチームを分割するという重要なプロトコルがあります。それがちゃんとワークし始めると、プロトコルによってつくられたドキュメントが、会社というプロダクトの行動になる。そうすると、ドキュメントに対する信頼感がすごく高まってきて、そこにみんな従うようになるんですよね。

ゆめみには今、例えば「今日からイエローカードをなくします」となった時に、決まったからにはそれに従って動くよねっていう強烈な規律性があって。みんなが厳格にその方針に従って動くというところの、いわば「絶対神」みたいなプロトコルの価値ってすごいよなと思います。

なので、DAOではないですけれども、そのプロトコルの大事さっていうのは実感していますし、今日UbieさんもGaudiyさんもみなさん大切にされていたので、すごく共感しました。

石川:ありがとうございます。僕が聞きたいことをたくさん聞いちゃいましたが、それぞれ個別の取り組みを色々やっていて、組織について独自の思想を持っているのがわかって、めちゃくちゃ勉強になりました。

久保:めちゃくちゃおもしろかったです。

片岡:楽しかったです、ありがとうございました。


さいごに

各社に興味をもっていただいた方は、ぜひ下記の情報もご参考ください!

Gaudiy(ガウディ)

「ファンと共に、時代を進める。」をミッションに、Web3時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を開発・提供するWeb3スタートアップです。NFT、ブロックチェーン技術などの先端テクノロジーを強みに、Web3と日本が誇るエンタメカルチャーを掛け合わせ、グローバル規模の事業展開をめざしています。

Ubie(ユビー)

「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、医師とエンジニアが2017年5月に創業したヘルステックスタートアップです。AIをコア技術とし、症状から適切な医療へと案内する「ユビー」と、医療現場の業務効率化を図る「ユビーAI問診」を開発・提供。誰もが自分にあった医療にアクセスできる社会づくりを進めています。

ゆめみ

2000年の創業以来、400社以上の企業と共に全世界5,000万MAUに達するデジタルサービスを世に送り出してきました。圧倒的な成長環境を重視しており、全員CEO制度、有給取り放題制度、給与自己決定制度、勉強し放題制度、フルリモし放題制度、副業し放題制度など数々のユニークな制度があります。DX・内製化支援により「アウトソーシングの時代を終わらせる」ことをミッションに掲げ、中期ビジョンとしては100社・1億MAUを目指しています。

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