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ファンコミュニティは「物語の増幅装置」であれーGaudiy×ミラティブ×エンタメ社会学者ー【イベントレポート後編】

2022年9月14日(木)に開催された、特別イベントファンコミュニティの現在と未来。『推しエコノミー』の著者でエンタメ社会学者の中山さん、スマホゲーム配信者数で日本最大級のゲーム配信プラットフォームを運営するミラティブ代表・赤川さんをゲストにお迎えし、Gaudiy代表・石川とともに「ファンコミュニティの現在と未来」についてお話ししました。

本記事の前編では、テクノロジーの発展に伴うファン心理の変化や理想のコミュニティ、コミュニティ形成のキーファクターなどについてお伝えいたしました。今回の後編では、居心地のよいコミュニティのつくり方から炎上に対する考え方、マネタイズやインセンティブ設計までをお届けいたします。

■スピーカー

■モデレーター

株式会社Gaudiy
Business Development
田中 陸也(たなか りくや)

「縦」と「横」を切り分け、居心地のよいコミュニティをつくる

田中さん(以下、田中):コミュニティ運営者の悩みでよくあるのが、ユーザー同士の関係性をどうつくっていくか。推しとファンという関係性は比較的つくりやすい一方で、ファン同士の関係性をつくるのが難しかったりすると思うんですが、この辺りはいかがでしょうか?

赤川さん(以下、赤川):「古参アピール」の話に通ずると思うのですが、僕は、古参のファンがマウントしづらいようなアーキテクチャをつくることが大事だと思っています。横のつながりを意識させないとコミュニティにならないけれど、マウントはさせない。そのために考えてるのは、いかに “粋” に振る舞えるように仕立ててあげられるかです。

具体的にいうと「giveした方がかっこいい」という空気感づくりや、それを促すアーキテクチャの設計が、めちゃくちゃ大事だなと思います。

中山さん(以下、中山):ゲームのレベルデザインとも似ていますね。同じ時期や同じ地点から始めたユーザー同士の方が攻撃しやすいから、コミュニティをセパレートするみたいな。

(左上)赤川さん、(左下)田中さん、(右上)石川さん、(右下)中山さん

赤川:まさにまさに。草野球と大リーグの話じゃないですが、同じぐらいの志、能力のある人たちを集めると横を意識するようになるけれど、明らかにレベルが違う人と一緒にすると居心地が悪くなったりする。なので「縦」のレベル感を適切に切ってあげることが大事ですよね。

さらに言うと「横」を切ってあげることもすごく大事で。例えば宝くじでも「2,600万分の1の確率で3億円が当たる」という状況だと当たる気がしないけれど、これが「100分の1」くらいの確率になると自分もワンチャンって思うじゃないですか。

横の関係性をマネジメントするのは難しいですが、レベル感の近い人たちをグルーピングして、かつ横を意識しあえる程度のサイズに収める。これはコミュニティ形成において、非常に重要なポイントだと思っています。

石川さん(以下、石川):サイズ感、すごくわかります。僕は「井の中の蛙」って実は幸せだと思うんですよ。比較対象が少ないコミュニティの方が幸せになるんだろうなって。メタバースがいいなと思うのも、よりリアルに近いじゃないですか。YouTubeは1対Nで不特定多数に配信できるけれど、メタバース空間では1,000人も見えないですよね。

なので、これからメタバース化が進んだり、より濃いコミュニケーションが大事にされていけばコミュニティも縮小されていくと思うし、その方が居心地がいいんだろうなと。

赤川:会社も同じですよね、お互いの顔が見えるサイズ感というか。150人くらいで組織が崩壊するみたいな話や、Amazonのピザ2枚理論で1チーム8人くらいが生産性を高める話とかも、結局コミュニティ論だと思ってて。熱量や能力が最も引き出されるサイズにうまくコミュニティを切っていくことが必要なんだと思います。

「わかりやすい正義」は燃えやすい。炎上のトリガーとは?

石川:コミュニティを考えていく中で、切っても切り離せないのが「炎上」だと思うんですが、そのトリガーってなんだと思いますか?

中山:サンクション(制裁・処罰)のなさ。炎上させても逃げやすいところかな。

Web1.0時代のコミュニティサービスは、よく「荒れるか、廃れるか」って言われていましたよね。学術的にいうと「内部凝縮性」と「外部探索性」と呼ばれるんですが、外部に探索すればするほど悪いところがでて荒れてしまう。一方で、内部だけで密にやっていても全然広がらなくて、それはそれで廃れていく。

赤川:たしかに。ただ、ミラティブを例にすると、バーチャルなわりに比較的荒れないサービスなんですね。

ミラティブのライブゲーミング(ミラティブ社・登壇資料より)

なんでだろうって僕の中で紐解いていくと、ひとつは「同期性」。例えば今僕がちょっと石川さんにムカついたとしても、リアルタイムで目の前にいると、罵詈雑言をこの場で書き込んだりしない。でもYouTubeのコメント欄だと、非同期かつ匿名で書き込みやすい。これが燃えやすさの一因としてあると思ってます。

もうひとつは、同じ部屋にいる人数が「顔が見える範囲」であること。「ヒューマンカインド」という本で、戦争の前線にいる人たち同士は実は相手にシンパシーすら感じているけれど、前線から離れれば離れるほど敵国への憎悪が増していたという統計があって。つまり、距離そのものが一定の憎悪性をもたらす。だから炎上が起こりやすい構造は確実にあると思うし、逆にいえば、炎上しづらい構造をつくることも一定できると思うんですよ。

一方で、炎上を全くしない社会が良い社会なのか? という議論すらあるかもしれない。極度のムラ社会みたいな構造の可能性もありますからね。

中山:僕はある一定、炎上も必要じゃないかと思ったりするんですよね。例えばWeb3で全部トラッキングできて履歴が見えてしまうようになると「広まらない」という問題に突き当たる気がしていて。炎上がないと、なんだなんだって人が集まらないですからね。

石川:嫉妬とか憎悪とか、攻撃的な炎上はよくないけれど、一方で炎上を「同じ志を持った人が一緒に戦う」という構造でみると、それを楽しいと思う人が一定いるのも理解はできるなって。

Gaudiy代表・石川さん

一番燃えやすい、つまり熱量が高まりやすいのは「わかりやすい正義」があるとき。例えば政治家が女性問題を起こしたとか、そういうのって誰からみても悪で「わかりやすい正義」じゃないですか。そこで一致団結して特定の人を叩きにいくみたいな構造があると思うんです。

良いか悪いかは置いといて、ゲーミフィケーション視点で見るとおもしろい構造はわかる。なのでこれを、良いベクトルに向けられるといいなって。悪い人を叩くのではなく、健全な議論としての炎上。そのためには誰もが正義を語れるのではなく、なにかの資格を持たないと意見できないとか、フェアなパーミッションを設けるなどが大事なんだろうなと思っています。

とはいえ炎上問題のせいで、クリエイターの人たちが敏感になってしまって、挑戦的で先鋭的なコンテンツが世に出づらくなっているのは問題だなと思いますね。

ファンコミュニティは「物語の増幅装置」であれ

田中:クリエイター文脈で言うと、ファンコミュニティにクリエイターを巻き込んでいくには、なにが重要だと思われますか?

中山:これまでクリエイターの方々と一緒にゲームやアニメを作ってきて思うのは、「情報遮断」は重要なポイントですね。情報を全部見せるのは、ネガティブでしかない。

消費者によるイノベーション」という本があるんですが、その著者があらゆるサービスを調査した結果、消費者からはイノベーションがひとつも生まれていなかったと。スキーのあとはスノーボードをつくりましょうとか、サーフィンをウインドサーフィンにしましょうとか。消費者がアレンジを加えて改善していくことはできるけど、革新的なものは生まれていないというのは、示唆深いなと思います。

石川:僕も同意で、コンテンツやイノベーションは、強烈なリーダーシップのある人が進めるべきものだと思っています。

その上で僕は「Web2.5」と呼んでいるんですが、意思決定できる範囲を分けることが大事だと思っていて。ワンピースの次の展開をファン投票で決めてしまったらおもしろいものは生まれないけれど、コンテンツ以外の部分、例えばワンピースのファンが楽しめるオフ会を企画してもらうみたいな活動には価値があるので、中央集権と自律分散のバランスが大事だなと思います。

Web2.5の概念(Gaudiy石川・noteより

赤川:最近「ジャンプ+」主催のイベントに登壇する機会があったのですが、まさに「週刊少年ジャンプ」って人気投票などで読者の声を聞きながらも、適切な距離感に作家・編集者・ファンをデザインすることで、革新的なマンガを数多く生み出してきたすごいシステムだなと思っていて。

その登壇を通じて自分の中で言語化できたのが、ファンコミュニティやそれを提供するサービスは、あくまで「物語の増幅装置」でなければならないということ。

ファンがコメントや創作することでの増幅もあれば、作家さんにコメントを届けることでインスパイアさせるような増幅もあると思うんですが、この増幅装置をコミュニティサービスを提供する側が作っていけるといいんだろうなと。

先ほど中山さんがおっしゃっていた「情報遮断」は大事ですが、誰からの反応もなく描き続けるのもまた難しいので、いいコメントやフィードバックがうまく届くようなデザインがもっと必要だなと感じます。

中山:ユーザーがコンテンツをつくるのは難しいけれど、そのリアクションを意図的に届けるアーキテクチャというのはおもしろいですね。

インセンティブ設計で気をつけたい「ソーヤー効果」

田中:残り時間も少なくなってきたので、視聴者の方の質問に答えていければと思います。

石川:「コミュニティの居心地の良さをつくるには、参加者の善意が必要だと思っています。インセンティブ設計をするときに意識されていることありますか。」

この質問でお伝えしたいのが、楽天レシピとクックパッドの事例で有名な「ソーヤー効果」という心理学です。

楽天レシピは投稿したら楽天ポイントがもらえるのに、何ももらえないクックパッドの方がより多くの投稿があった。なぜかというと、主婦はポイントのためにやっていると思われたくなかったからなんです。コアなファンの人たちは、お金を目的にしていると思われたくないし、逆に言うとそこをインセンティブとして求めて入ってくる人たちはその理由で去っていきます。

どうすべきかの解は、バランスよく設計すること以外にないのですが、インセンティブで人を集めすぎるとインセンティブが理由で抜けていくので危険だということですね。

もうひとつ、インセンティブ周りで課題だなと思っていることは、元から純粋なファンだった人が、金銭的なメリットのあるインセンティブを持ち始めた結果、本来のモチベーションはお金ではなかったのにインセンティブが理由でやめてしまうという現象です。

この問題に対する解決策はまだ出ていないのですが、きちんと取り組んでいくべきだし、インセンティブの使い方次第かなと思ってます。

赤川:関連したところでいうと、コミュニティの序盤は、なるべくピュアな熱量でドライブされる方がいいと思っていまして。例えばYouTuberの仕組みが、最初から稼げるありきだったとしたら、今みたいにはなっていないと思うんですよね。

ただ動画をアップするのが好きで毎日やり続けていたヒカキンさんのような初期の人たちがいて、一定水準までいったところで稼げるようにもしたからこそ、角度が一気に変わるというか。2段ロケットの2段目としての金銭的なインセンティブが、新規参入を増やすドライバーになったのは、イノベーションを起こした構造としてすごく学びがあるなと思います。

今までの構造だとただ好きでやっていた人が報われづらくなっているのが、Web3やテクノロジーの力で補填していくべきだよね、というのが今の議論だと思いますが、そのバランス感ってすごく大事だし、コミュニティの熱量もものすごく大事だなと思っていますね。

「物語としての価値」がマネタイズにつながる

赤川:「グルーピングを進めたコミュニティは居心地が良さそうですが、収益化が難しそうに思います。どうバランスを取るんでしょうか」っていう質問に答えてみたいなと。

僕は、いかに物語にお金を払ってもらうか、は2020年代のビジネスのベーシックなテーマだと思っています。

もちろん前提として、マネタイズは様々なやり方があるので、なにが正解ってわけではないです。例えば広告であればPV課金とかですし、Web3だと流動性とか価値換算も含めた構造になったりと、日々テクノロジーが進化していますよね。

ただ、「安い・早い・質がよい」みたいな物質的な価値がすでにAmazonなりでかなり満たされている中で、物語にもっと価値や収益機会が生まれるようになると思っていて。

ミラティブ代表・赤川さん

例えばラグジュアリーブランドも、その歴史だったり、今この瞬間もESG的な活動だったりに取り組んでいるという物語も含めて僕たちは消費している。逆にルイ・ヴィトンが「素材対原価はこれです」って言ったらすごい野暮じゃないですか。

そういう前提があった上で、ミラティブのコミュニティがマネタイズできている理由のひとつは、完全クローズドではなく「ちょっと開かれている」ことにあると思っています。

例えば、僕が今好きな芸能人に電話できるというシチュエーションにおいて、自宅で直接電話するのと、ラジオ番組中に電話がつながるのを比べると、行為としては同じだけど、僕の振る舞いは変わるはずです。人間は、自然と周囲の存在を意識・想像して立ち振る舞うんですね。

これと同じで、ミラティブのコミュニティも完全クローズドではなく、ちょっと開かれているからこそユーザーさんの立ち振る舞いが「粋」になるところがあると思っていて。あくまでソーシャルな関係性の中で、物語や見られ方を含めたところに原価以上の価値が乗るという構造。それが設計しやすい時代になってきているなと思います。

世は「大コミュニティ時代」。知的好奇心が満たされる場所

田中:ありがとうございます。最後に登壇者のみなさんから一言ずついただいて、今日の場を締めたいと思います。石川さんからお願いできますか?

石川:なんというか「大コミュニティ時代」だなと思っていて。Web3もメタバースもライブ配信系もみんなコミュニティの話をしてるじゃないですか。国家の問題もコミュニティの話だし、その領域において革命が起こりそうなテクノロジーもたくさん出てきている。

なので知的好奇心が高い人は、この分野に入ると脳みそがかなりアップグレードすると思います(笑)。コミュニティは自分の所属する組織や人間関係を考えるときにも活かせると思いますし、すごく自分自身をエンパワーメントしてくれるものだと思うんですよね。

事業に関係なく、コミュニティを考えることはすごくおもしろいので、ぜひみなさん、中山さんの本を読んでくださいっていう感じです(笑)。

赤川:読んだあとはGaudiyかミラティブに入社するといいよってことですかね(笑)。

田中:ありがとうございます(笑)。赤川さんお願いします。

赤川:はい。好き放題話してしまいましたが、少しでも参考になっていれば嬉しいです。

今の石川さんの話に近いのですが、コミュニティを考えることって人間を考えることとか、人類のもつ社会性を考えることにもつながるので、やっぱり飽きない。完全に科学できるはずもないんだけど、それを極力科学しようとアプローチしていく。

このわかりあおうとするプロセスが、僕がずっとコミュニティが好きな理由のひとつです。

まさに僕らミラティブにも「好きでつながり、自分の物語(ナラティブ)が生まれる居場所」というビジョンがありますが、結果として人を理解すれば、ハックすることも可能になっていくわけで、人を理解した上でいかにエンパワーできるか、人にとって居心地のよい状態をいかにつくれるか、という営み自体に、事業の楽しさを見出したりしてます。

なので、人間が好きとか人間性を考えたい人にとってはおもしろいフィールドがコミュニティにはあると思いますし、また一緒に語れたら嬉しいです。今日はありがとうございました。

中山:ちょっとソマリランドの脱線した話もしましたけど、根本はやっぱり変わっていないというか。みなさん完璧なコミュニティってどこかしらで味わってるはずで、リアルの世界だったら信用ならないやつは入れないし誰かがうまく繋いでいるし。でもデジタルとかこの都市社会の中で、実は損なわれてしまったものをもう一度取り戻す。

なので、「これからはコミュニティ社会だ」「未来はこうだ」みたいなすごいものを創造するんじゃなくて、自分が今までに経験してきたものをデジタルの中でどう実現していくかと捉えると、幻想を抱きすぎなくていいのかなと、今日喋りながら思ったりしました。

田中:みなさん、本日は興味深いお話をありがとうございました。(了)


本記事の前編は、以下よりご覧ください。

さいごに

各社に興味をもっていただいた方は、ぜひ下記の情報もご参考ください!

Gaudiy(ガウディ)

「ファンと共に、時代を進める。」をミッションに、Web3時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を開発・提供するWeb3スタートアップです。NFT、ブロックチェーン技術などの先端テクノロジーを強みに、Web3と日本が誇るエンタメカルチャーを掛け合わせ、グローバル規模の事業展開をめざしています。

ミラティブ

ミラティブは「わかりあう願いをつなごう」をミッションにゲーム配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」を運営しています。
ビジョン「好きでつながり、自分の物語(ナラティブ)が生まれる居場所」を掲げ、ユーザーにとってオンライン上の居心地の良い空間を提供できるようプロダクト開発に取り組んでいます。

Re entertainment

エンターテイメントの再現性を追求し、経済圏を創造する
エンタメは無数の失敗のなかで時に大きなヒットを生んで経済圏を築き上げます。Re entertainmentはこの不確実性の高いビジネスにおいて、経営学・社会学を基礎としたScienceを持ち込み、Essenceを抽出し、Try/Re entryし続けることを支援し、組織の成功確度を高めることをビジネスとしています。

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