プロデューサーは「ファン体験づくり」の責任者。マンガコミュニティ企画の裏側
Gaudiyは、2021年11月1日に、コミックスマート社と共同で「GANMA!コミュニティ」正式版をリリースしました。ブロックチェーン、NFTを活用したマンガコミュニティとして、昨年のβ版から時代を先駆ける様々な取り組みを行ってきましたが、ついに一般公開を迎えました。
今回は、そのプロジェクトにて、コミュニティのプロデューサーを務めたYiping(イーピン)さんに、正式版ローンチに至るまでの企画・開発の裏側についてインタビューしました。
呉 易平 | Yiping Wu @wuyiping7
中国杭州出身。2016年3月、慶應義塾大学商学部を卒業。日系メーカーの財務経理、コワーキングスペースのコミュニティマネージャーを経て、2021年6月にGaudiy入社。プロデューサーとして、ファンコミュニティサービスの企画運営をメインに担当している。
マンガ・アニメ好きで来日。コミュニティとUXデザインに惹かれてGaudiyへ。
——はじめに、イーピンさんの自己紹介をお願いできますか?
私は中国の杭州出身で、2010年に日本に来ました。小さい頃から日本のマンガやアニメが大好きで、純粋に「いつか行ってみたい」という気持ちがあったんです。
慶応義塾大学では会計や金融などを学び、新卒で日系の化学メーカーに入りました。当時は財務経理を担当していましたが、海外との取引が多かったので語学を活かすこともでき、やりがいを持って働けていました。
ですが、小さい頃から絵を描くことや0→1でなにかを創り上げることが好きだったので、もっと創造力を発揮できる環境に移していきたいという思いが強くなってきて。それで、建築デザインの会社に転職しました。
そこでは、コワーキングスペースのコミュニティマネージャーとして企画・運営を担当しました。その中で、「コミュニティの人々がサービスの『消費者』ではなく、何かを一緒に生み出す『生産者』に転じる」ということに興味を持ったんですね。
また、「デザインという手段を通じて社会課題を解決していく」という考え方を学び、それをキャリアの軸に置きたいと考えるようになりました。
そうしたUXデザインやコミュニティへの関心と、来日のきっかけとなったエンタメコンテンツを軸に事業を展開していたGaudiyが、自分のやりたいことと全部マッチしたんです(笑)。「ここに入りたい!」と思ってWantedlyから応募し、2021年6月に、コミュニティのプロデューサーとしてGaudiyに入社しました。
——すごいドンピシャでしたね(笑)。Gaudiyでは、どんな業務に携わっていますか?
入社当初は、既存コミュニティのひとつ、週刊少年ジャンプの人気マンガ『約束のネバーランド』のコミュニティで、CS対応を担っていました。企画提案や機能要望、不具合報告などのメッセージに返信しながら、ファンの方々がいまどんなことを感じていて、なにを必要としているのかを、実際の行動や反応から学んでいきました。
プロデューサーの仕事は大きくふたつあります。ひとつは、ファンに一番近い立場として、ファンの方々が必要としているものを開発にフィードバックする役割を担っています。
もうひとつは、コミュニティの熱量を高めるための企画プロデュースです。UXリサーチを実施した上で、ファンの方々にどのような体験を提供し、いかにコミュニティを楽しんでもらうかを考えて、企画に落とし込んでいます。
GANMA!コミュニティは「プラットフォーム型」の新たな挑戦
——今月ローンチされた「GANMA!コミュニティ」正式版では、イーピンさんがプロデューサーとしてプロジェクトを推進されていました。その経緯から教えていただけますか?
「GANMA!」は、オリジナルのマンガ作品が集まる人気アプリで、コミックスマートさんが運営しています。昨年から「GANMA!コミュニティ」のβ版を共同で開発・提供してきて、この度GANMA!作品全体に関わる「GANMA!コミュニティ」正式版をリリースすることになりました。
今年の8月下旬にキックオフをして、まずはコミュニティのビジョン策定から始めました。「マンガ家の職業価値を向上させ、子供たちの憧れの職業にする」というコミックスマートさんのミッションがあり、そこにGANMA!のビジョンがあるとなった時に、コミュニティはどんな価値を提供できるのか。
クライアントの方々に「GANMA!コミュニティ」正式版に対する期待をヒアリングしたり、Gaudiyが提供できる価値やお互いのめざしたい世界観などを整理した上で、コミュニティの目的をふたつ定めました。
▼「GANMA!コミュニティ」正式版
ひとつは、マンガ家を応援するGANMA!ファンを増やすことです。作品と読者との距離が近いGANMA!だからこそできる、共に価値を創り出す「新しい応援」のあり方や、ファンと作品の「新しい交流」の形をコミュニティを通じて実現すること。
もうひとつは、より多くの人がマンガ家をめざすきっかけを提供することです。作家さんや作品を応援するだけでなく、マンガを創るという体験を提供することで、「自分でもマンガ家をめざせるんだな」というきっかけを作ること。
これらの目的を定めた上で、正式版をリリースする前に、一部のユーザーさんに限定した先行体験を1ヶ月間ほど設けました。
——正式版リリースの前に、なぜ先行体験を挟んだのでしょうか?
昨年のβ版では、GANMA!作品単体のコミュニティを展開していましたが、今回の正式版では「GANMA!コミュニティ」というプラットフォーム上にGANMA!の作品がいくつもある状態なので、ファンの方々が実際にどういう行動を取るかわからなくて。
Gaudiyとしても、IP単体のコミュニティではなく、複数IPが集まるプラットフォーム型のコミュニティ形成についてはまだノウハウがなかったので、実際のユーザー行動を観察したり、ユーザーの声を聞いたりしてからプロダクトに生かしたいと考えていました。
また、もうひとつの理由としては、昨年のβ版で得られたインサイトとして、「コアユーザーと密にコミュニケーションを取る」ことがコミュニティの立ち上げ期において非常に大事であることがわかったんです。
なので、一気に人数を増やすよりも、まずは少数のコアユーザーひとりひとりと丁寧にコミュニケーションを取る方が、結果としてコミュニティ全体の盛り上がりにつながる。そういった理由で、先行体験の期間を設けました。
インサイトを得るため、コアユーザーへのインタビューを実施
——実際に先行体験をしてみて、どのような気づきがありましたか?
コアファンのペルソナとしては、大きく3つに分類できることがわかりました。
ひとつめは、距離の近い人とだけの交流を好み、作品への感情表現としてファンアートを描いたりする人。ふたつめに、興味が広くいろんな作品を読むことが好きで、常におもしろい作品がないかを探している人。さいごに、特定の好きなマンガがあって、企画を立てたり、その作品をもっと多くの人に知ってもらうための布教活動に熱心な人。
▼ユーザーリサーチから導き出したペルソナのひとつ
新しいマンガを探すときに、仲の良い友達など、信頼ある情報ソースから見つけに行く人がいると思うのですが、これがコミュニティの中でも起こっていて。ある人がおすすめしている投稿から「この作品を読んでみよう」「これおもしろそう」となり、次のマンガを選ぶ、という行動が起きていることがわかりました。
これはIP単体には見られなかった、プラットフォーム型コミュニティの特徴だと思います。
——そのインサイトは、ユーザーの行動からわかったのでしょうか?
ユーザーの行動を観察する部分もありますが、特にユーザーインタビューからのインサイトが大きいです。先行体験では約30名にご参加いただき、そのうち5名の方にインタビューにご協力いただきました。
まず事前準備として、オンラインホワイトボードの「miro」で質問項目を書き出す作業を行いました。そこでは質問の大きなカテゴリ、たとえば「コミュニティの利用状況」「創作活動」「推し作品と応援」などを挙げて、それぞれについて深掘っていく質問を洗い出していきました。
▼実際にmiroで書き出した質問項目
実際のインタビューでは、用意した項目どおりに質問していくのではなく、バイアスをかけずに相手の反応をみながら話を掘り下げる、ということを心掛けていました。
たとえば、先入観を持った問いかけにならないように、相手が使っているワードや文脈を使って質問したり、リアクションが多いところを掘り下げたり、といった形です。
また、話の内容を「〇〇ということですか?」と確認しながら進めていくことがユーザーインタビューでは大事ですね。大きく共感していただけたらそれが正しい解釈だとわかりますし、肯定しつつも補足してくれた場合は、その補足の部分がむしろ大事だったりします。
※ユーザーインタビューについては、以下ブログもご参考ください。
ファンは「布教」したい。8周年企画の立案に生かす
——実際に得られたインサイトを、企画や機能に生かした例はありますか?
「ファンは好きな作品を他の人にも『布教』したい」というインサイトは、GANMA!の8周年企画で参考にしましたね。
マンガアプリ本体の企画に合わせて、推しのキャラクターや作品をGANMA!コミュニティで投票するという企画を実施しました。
マンガアプリからコミュニティに来てもらって、好きな作品やキャラクターを投稿する、という企画は、初期の盛り上がりをつくるのに有効でした。作品の優劣をつけるのではなく、多様なファンの熱量を可視化できることがコミュニティの強みかなと思います。
——コミュニティは立ち上げが特に難しいと思いますが、コミュニティプロデューサーとして意識していることはありますか?
まずは一次情報をしっかり取りに行くこと。その上で、ユーザー視点に立った企画を立てることですね。ただ企画単体を考えるというよりは、ユーザーストーリーを描いた上で、一連の行動を考えるようにしています。
たとえば8周年企画であれば、GANMA!アプリから企画を見つけてコミュニティに参加し、投稿をしてSNSでもシェアする…みたいなストーリーです。
▼ユーザーストーリーもmiroで整理
また、やはり反応をしっかり返していくことが大切だと考えています。ファンの方同士や、運営からファンの方に対する反応はもちろんですが、GANMA!の場合は作家さんの存在が大きいので、作家さんに反応いただけることがコミュニティの盛り上げにおいて重要です。
ファンの方々のリクエストに応じたイラストを作家さんが書いてくださることもあるので、運営としてコミュニティでの双方向の体験を促進できるように意識しています。
コミュニティプロデューサーは、体験づくりの責任者
——今回のプロジェクトで、一番印象深かったことはありますか?
そうですね…先行体験から正式リリースまでの間に、プロダクトのUIが大きく変わったことが印象的でした。
初期のUIでは、作品ごとに個別のグループをつくり、そこで交流しやすいようにしていました。ですが、そうするとコミュニティ全体でみたときの盛り上がりが薄まってしまい、少し寂しい印象を与えてしまっていたんです。
そこで作品全体の投稿が集まるUIに変更し、個別の作品にはタグをつけることで、タグ検索すれば好きな作品をもとにファン同士がつながれるようにしました。これは、先行体験でのユーザーインタビューや、実際のユーザー行動をみたからこそ改善できた機能です。
このように、ファンの方々に一番近いプロデューサーが、いかにユーザー視点をもって社内のデザイナーやエンジニアとコミュニケーションを取り、プロダクトの機能に反映させていけるかがとても大事ですね。
——ありがとうございます。さいごに、今後のチャレンジについて教えてください。
わたしは、この仕事をしていて、ファンの体験をつくっていることがとても楽しいんですね。ほぼゼロからのリサーチが、企画や機能としてアウトプットされて、ユーザーさんから反応を得られるのがすごく嬉しくて。
今後もUXのスキルを伸ばしていきたいのと、一次情報として得たインサイトをプロダクトの機能に活かしていく部分がまだまだできていないと思うので、強化していきたいです。
またGANMA!コミュニティでは、より「共創」の体験をつくっていきたいと思っています。ファンの方々からアイデアや意見を募って一緒に創作するなど、そういったファン体験をもっと増やしていきたいですし、技術を活用した新しい体験づくりにも挑戦したい。
Gaudiyがめざす「ファン経済圏」を、GANMA!や他のプロダクトを通じて、チーム全員で創っていきたいですね。(了)
(取材・文:@hanahanayaman)
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